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 それから一夜が明け、自警団アジト前にて。


「全員、集まったな。では、出発するぞ」


 どれだけ馬鹿騒ぎをしていても流石一国の王子。こうしてみんなを纏めあげる姿は凛々しいものがある。
 感心したようにクロムの顔を見つめるフィシカは何処か楽しそうだ。


「ままま、待ってーーー!」
「ん!?」


 突然聞こえたあまりの大声にフィシカから間の抜けた声。リズが驚いたようにフィシカを見ると腰を抜かしそうになっていた。
 どうやらドッキリといった類いのものが苦手らしい。

 いいこと知れたとかなんとか考えながらクロムは声の主を探す。そこにいたのは、緑味のかかった黒い髪を持つ青年。
 年はおそらくクロムやフィシカらと変わらないだろう。


「ソール?」
「つ、ついさっき聞いたんだけど、今からフェリア連合王国に行くってほんと!?」


 ソールと呼ばれた青年は焦ったように問いかける。やはり王子への敬語はないらしい。


「ええー! 情報おそっ!
 てっきりソールは来ないんだと思ってたよー」


 フィシカに手を貸しながらリズが言った。本当に驚いているらしくその表情はなんとも言いがたい。


「ていうか……このことはヴェイクが昨日のうちに伝えておくって言ってたよね?」
「あ……。俺様としたことが忘れてた」
「ちょっとリズなんでヴェイクに任せたの」


 至極もっともだとは思うが酷くないかフィシカ。そしてルフレはそれに賛同するように頷いてしまっている。


「んもーーーー!
 もぅ。ヴェイクってば、ほんっと適当! 今日はこの前みたいに武器忘れてない!?」
「なんなんだろうこの自警団、僕少し不安になってきた」
「いや……うん、いざとなったらボクがヴェイクを引きずり回すから」
「ソワレってマトモじゃない男には容赦無いよね」


 ヴィオールといいヴェイクといい。この女性はここいらの男性よりよほど格好いい気がする。
 当のヴィオールは向こうのほうで蝶と戯れているが。それを見つめるフレデリクの視線が心なしか冷たい。


「うっせー! 今日はちゃんと持ってるよ!
 ……まぁでも、こうして間に合ったんだし、良かったな! ソール!」


 開 き 直 る な 。
 この時ほどこの自警団メンバーの心うちが一致したこともないだろう。


「全然良くないよ! 急いで準備したから髪はボサボサだしお腹はペコペコだよ!」


 哀れ。腹が減っては戦は出来ぬだとかなんとか、別の国に伝わる諺を思い出したフィシカは苦笑いを浮かべながら自身の体や上着をさわる。
 それを見たクロムは1つため息をつきながら声をかけた。


「おい、フィシカ」


 昨日の地図事件もあるからかクロムは少しぎこちない。


「ん? あぁ、寝癖直し探してるの」


 流石女の子というところか。上着の裏から出てきたのは寝癖直しとブラシと白い塊。


「はいどーぞ、ついでにこれも」
「あぁ、ありがとう。って、これ?」


 青年は白い塊を見つめて首を傾げる。フィシカが気がついたように指をならした。


「他国から持ってきたお米っていうのを固めたものだよー。
 おにぎりっていったかな? 結構美味しいから食べてみて!」


 相変わらずフレンドリーである。ルフレはまだ状況が分からずおどおどしているというのに。
 因みに、フィシカと青年は初対面である。


「あ、あの! この方は……?」


 雰囲気に呑まれてしまいそうだったがなんとかルフレは状況を変えようと試みる。そしてそれはうまくいったようだ。


「ああ、悪かった。こいつはソール。
 こう見えて、頼りになる騎士だ。
 というかフィシカ、お前ソールと親しいようだが?」
「初対面!」
「……だろうな」


 ため息が出た。このフレンドリー義賊は一体どれだけの人間と仲良くなるつもりだろうか。
 というか、この調子だと騙される男も出てくるのではなかろうか。


「よろしくね、ルフレにフィシカ。
 君たちが入団したことは、ミリエルから聞いてるよ。
 あ、因みにミリエルはこの自警団の魔道士なんだ。彼女も後から合流するって。
 ……ん、これ美味しいね!」
「でしょー!? 私が住んでた隣の国から持ってきてたんだけどさ、美味しいのよね!
 調理する前なら保存もきくし、私いつも持ち歩いてるの」
「本当? フィシカさん、わたしも!」
「ボクもいただけるかい」
「俺様も!」


 フィシカのまわりに群がる。食い意地が張っているのはソールだけではないようだ。
 遠くからフレデリクが羨ましそうに見ている気がする。


「おい、お前ら……」
「クロムも食べてみてよ!」
「むぐっ」


 無理矢理白い塊を詰め込まれた。一杯に詰め込まれたせいで若干息苦しい。
 この義賊は食べ物で一国の王子を殺すつもりなのだろうか。


「どうお? どうお?」


 よく分からない声、キラキラした目。言っておこう、フィシカに悪気は無い。
 これはただの期待の眼差し。それが痛く感じる。
 なんだかいたたまれなくなり、無理矢理口を動かして白い塊を味わってみた。


「……あ、旨い」
「でしょ!」


「……こんな自警団で大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ、問題ないっ!」


 大丈夫でない気がしてならないフレデリクだった。
Dear, My Doll.