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「ごめんねソール、乗せてもらって」


 フィシカは乗せてもらった馬の背中を撫でて小さく呟いた。
 ソールは少しだけ振り返り笑って見せる。


「いいよこれくらい、おにぎりのお礼」


 おにぎりごときにどんな恩の返し方なのだろうか、とも思ったルフレだったが『食べ物の恨みは恐ろしい』とも言う。その逆もある、ということだろうと黙っておいた。
 どちらにせよソールは良かれと思ってやっているのだろうし、フィシカもその好意を無下にすることはない。双方納得しているのなら、それでいいのだろう。


「……ん?」


 ソールの後ろでフィシカが呟く。どうしたの、と聞くソールを他所に体を乗り出して前を見た。


「……! ストップ、クロム」
「どうした?」


 声をかけられ、クロムはフィシカへ視線を移す。いつもの雰囲気とは違うその声に、若干の不安を覚えながら。
 フィシカ顔には少し焦りが伺える。彼女の視線をなぞるように、ルフレが目を凝らし前を見据えるとそこには大量の影。


「クロム、まさかあれ……!」
「まさか……こんなところにも屍兵が……!?」


 そこにいるのは大量の異形。その名を知らぬルフレが頭上に疑問符を浮かべて聞く。


「屍兵?」
「名前がないと不便ですので、あの異形の化け物に名前をつけたものですよ」


 フレデリクの声がすると同時にフィシカはソールの馬から飛び降りた。
 装飾の違う短剣には手をかけず、大量に常備している短剣を両手に構える。
 先ほどまでの陽気な雰囲気は何処へやら、フィシカの回りにはピリピリとした雰囲気が。


「手強いぞ。みんな、気をつけろ」
「おう! 任せとけ!
 俺様の斧の一撃で……って、あれ?」


 いきり立って出てきたヴェイクの様子がおかしい。フィシカが冷たい視線を注ぐのを知ってか知らずか、ヴェイクはキョロキョロ。
 そして叫ぶ。


「お、斧がねえ! どっかに落とした!」
「アンタ……」
「ちょ、フィシカ! そんな冷てえ目を向けるな!!」


 普通無くさないし落とさないだろう。そう言いたい衝動に刈られるがこんなところで士気を落としても仕方がない。


「何をやってるんだお前は……」
「ヤバいぜ! 斧がねえと俺様、戦えねえ!」


 武器が無くても戦える奴がいるなら見てみたい。……とはいってもフィシカなら素手で敵を殴るくらいはしそうだが。


「いいからお前は下がってろ! 敵が来るぞ!」
「ルフレ、指示を頂戴!!」


 この軍の大将はクロムで、軍師はルフレ。
 指示は基本的に軍師であるルフレから仰ぐことになっている。


「……適当に!」
「おいちょっと待てこらルフレ」


 軍師がこんな調子でどうするんだ。普段ボケキャラなフィシカが戸惑うのもまあ仕方がないかもしれない。


「……冗談だよ。クロムとフィシカは右の敵を頼む、フレデリクとソールはそれに同行! それ以外は僕と左に、ヴェイクはリズの近くにいて」
「了解ー」


 少しのやる気のない声を出したのはフィシカ。その声とは裏腹に、浮かぶ表情は楽しげである。


「我妻よー!!」
「ヴィオールボクそろそろ君をうっかり刺し殺しそうなんだけど」


 フィシカと離れるを惜しむヴィオールの首根っこをソワレが掴む。戦闘前だと言うのになんとも緊張感のない軍だ。


「さて……どうしますか、クロム様」
「そうだな……フィシカ、お前は俺の側にいてくれ」
「認識ずらす?」
「しなくていい。ソールは俺とフィシカの後ろを頼む、ソシアルは視野が広いからな」
「了解、フィシカ後ろは任せてね」
「ありがとー」


 なんだか薔薇色の空気が二人の周りを纏っている気がする。特に注意するつもりもないが、


(……この、胸の痛みは?)


 その奥に潜む感情を、クロムはまだ知らない。


「クロム様、私は……」
「銀の槍を寄越して壁に」
「お助けキャラの宿命ね」
「発言が何故かメタいと感じるのは僕の気のせいかな……」

Dear, My Doll.