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「……クロム様」
「なんだ、フレデリク」


 戦場でなんと呑気な会話なんだろう。思いつつクロムはフレデリクの方を向いた。
 勿論右手は剣──イーリス王家に伝わる宝剣である、封剣ファルシオンを振り回しながら、だ。


「流石にそろそろ痛いです」


 グレートナイトといえど彼の鎧は無敵ではない。武器を剥がされて何も出来ないフレデリクは反撃出来ない状態である。
 クロムが振るう右手のファルシオンに屍兵がぶち当たり消えていった。


「……すまんなフレデリク」
「いえ、よろしいのですが……」


 フレデリクがチラと視線を移した。
 そこにいるのは大量の屍兵。そしてそれをぶっ潰し……失礼、薙ぎ払っていくソールの姿。


「……ソールは、あんなに腕っぷしがつよかったか?」
「いえ。少なくとも、私の記憶では」


 酷い言われようなことは敢えて触れないでおこう。ソシアルナイトとはいえあんな風に無双する様は珍しい。
 というか、目が若干笑っていないような。


「……ソールってあんなに怖い表情してたか?」
「……いえ……」


 何かの妖気にでも当てられたのだろうか。いやまぁ、当てられたとすれば……と、クロムとフレデリクは同時にとある一点を見た。


「暇だなー……」


 そこにいるのは暇そうに佇むフィシカ。前はクロムとフレデリク、後ろはソールが屍兵を倒していくので何もすることがなく暇なようだ。
 ソールの様子が変わったのはフィシカと会ってから。
 とすれば、フィシカを疑うのも同然なのだがソールとフィシカが出会ったのはついさっきだしフィシカがしたこともとくにない。
 あるとすればおにぎりと寝癖直しだけか。


「おにぎりは俺も食べたし……」
「寝癖直しにあんな効果あるとは思えませんし……。……まさか」


 思い付いたように指をならしつつ左腕の鎧で屍兵をはね除け続ける。こんな芸当が出来るのはフレデリクだけだろう。


「何かわかったのか?」
「……憶測ですが、一応は」


 フレデリクの表情が苦笑いに変わる。右手で屍兵の首を捕まえ、それをソールの方へと投げつけた。フレデリクは武器がなくてもある程度戦えそうだ。……どこぞの斧戦士にも教えてやりたい。


「クロム様にはまだ少しお早いかと」
「俺は子供か?」


 あながち行動だけ見れば子供で間違いはない。不貞腐れつつ屍兵を駆除する姿は勇ましいものだが……。
 ああそういえば、まだ俺はフィシカのことなにも知らないな、とか戦場なのにまた呑気な考え。
 ちらりとフィシカを見る、と。


「……! フィシカ、来るぞ!!」
「……え」


 クロムが叫んだ頃にはもう遅い。完全に気を抜いていたフィシカの頭上、降り下ろされたのは鈍く煌めく斧。


「フィシカ!!」


 なんで気を抜いていたのだろうか。
 もっと自分が注意していれば、フィシカにこんな危険な目を合わせることなんてなかったのに。
 どうして、どうして。

 悔やんでる暇はなかった。
 迫る斧の切っ先からフィシカを守ろうと、クロムは身を投げ出した。

 視界の端で、フィシカが微かに驚いていたのは気のせいだろうか。あの表情の意味はなんなのだろうか。

 もう、どうにでもなれ。

 クロムは意を決して目を閉じた。


「しゃーねえなぁ」


 何処からか、あの斧を忘れた戦士の声を聞いた気がする。



心の奥底で
(フィシカを失いたくないと、いつの間にか思っていた)
Dear, My Doll.