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 微妙な雰囲気のまま行軍して数十分後。相変わらず、フィシカはソールの馬の上である。
 一国の王女──リズは歩いているというのに、なんだこの様は。

 途中途中、ソワレがヴィオールを追いかけ回していたり、フィシカとヴェイクが手合わせしたり、何かと大変だったがそれ以外はなんの問題もなく進んでいた。
 と、ルフレの目に映ったのは何かの生き物だった。


「あれ? あそこになにかいる……」
「あ、ほんとだ」
「んー?どれどれ」


 ルフレとリズの声に、フィシカはソールの後ろから反応。馬からかなり身を乗り出しているが、落ちない辺り無理はしていないのだろう。
 が、やはり視界には限りがある。フィシカは渋々馬から降りて、その生き物に歩み寄った。
 後からクロム達もそれに続く形で、姿をはっきりと確認してから口を開く。


「ペガサス、か?」
「ふぉぉ……」


 フィシカの反応が可笑しい。クロムが恐る恐る振り向くと──。
 そこには目を輝かせたフィシカの姿。


「えーっと……フィシカ?」
「ペガサスってこんなに可愛いんだ……。
 ……羽モフモフしたい……ぎゅってしたい……」


 クロムの声が聞こえていないのだろうか。
というか、なんだ、このあどけないフィシカは。
 キラキラと目映いばかりの目でなにがあったんだと聞きたくなる。



「おい、フィシカ?」
「へ? あっ、ごめん。私、祖国じゃ飛竜しか見たことなくて」
「ペガサスナイト、いないのかい?」


 ルフレの問いかけにフィシカは小さく頷く。その瞳はまるで祖国を思い返すように奥ゆかしい。


「とある事件を切っ掛けにね、女性騎士がめっきり減ったものだから。
 ほら、天馬騎士って女性しかなれないでしょ? だから私もペガサスを見ることがなかったの」


 それにしても可愛いなぁ。呟きながらペガサスの視点に目をあわせる。
 ふと目を下にやったときに、気づいた。


「あれ? この子……怪我してるわ」
「よく気付いたな……。どれ、見せてみろ」


 フィシカの横を通り、ペガサスに歩み寄った。その瞬間のこと。


「う、おっ!?」


 ペガサスが暴れだした。怖いのだろうか、人間が。
 急なことで驚きを隠せないクロム、少し眼光が鋭くなったような気がする。


「くっ……おとなしくしろ……!」
「クロムは乱暴なのよ、そんなんじゃダメに決まって……」


 そこまで紡ぐと、また。


「ひゃぁぁあ!!」


 ペガサスが暴れだした。叫び声が原因だろうが、そんなことは誰も知らない。
 てんやわんやするクロムとフィシカ、ルフレに声をかけるのは。


「待ってください!」


 意外にも。

  たったったった……どてっ。

 走ってきて何もないのにいきなり転けるスミアだった。あまりにも派手な転び方なので鼻の骨辺りを折ってないか心配になる。


「スミア!?」
「だ、大丈夫か?」
「うぅ……すみません。私ったらいつもこうで……」


 まぁでしょうね。ルフレとフィシカの心情が一致した。
 なんせ初対面のときにもあんな調子だったのだから、仕方がない。
 クロムは思わずため息をついて、スミアに言った。


「スミア、近づくのは危険だ。下がっていろ」


 まぁ普通の人はそう思うわな、なんて当たり前なことを代弁してくれたクロム。しかしスミアは下がる気配を見せず、それどころか一歩歩み寄った。


「クロム様、ここは私に……」


 更にペガサスに歩み寄ったスミアは、ペガサスの目を見つめる。
 澄みきったスミアの瞳はあまりにもきれいで、端から見ていたフィシカをも穏やかな心にした。


「ほら、怖がらないで。私の目を見て……」
「……あ、」


 スミアが更にペガサスに歩み寄る。しかし、ペガサスに先ほどまでのような暴れる気配はない。


「おとなしくなった……?」
「すごーい、スミアさん! あんなに暴れてたのに!」
「驚いたな……。すごいじゃないか、スミア」


 ルフレ、リズ、クロムから称賛の声。対してフィシカからは何故だかそわそわとした雰囲気が。触りたいのだろうか。


「そんなこと……。私はただ、必死で……」
「そうか……スミアの気持ちがそいつに届いたんだな」
「そんなことよりペガサス触りたい!」
「フィシカは空気を読もうね」


 ルフレに首根っこを捕まれて引きずられていく。自業自得だ。


「みなさんは先に行ってください。
 私はこの子の手当てをしてから追いかけますから」
「一人で大丈夫か? 少しくらい遅れても問題は……」
「いえ、大丈夫です。今イーリスは大変なときですから。少しでも早く助けを求めてください」


 健気な天馬騎士、スミア。なんと素晴らしい気遣いだろうか。
 しかし果たして、その行動が忠誠心からか、はたまた別の感情からか。それを知るものはいない。


「……ありがとう。くれぐれも気を付けて来てくれ」
「はい」


 その光景を見たフィシカ。少し頬を膨らませて、ルフレに愚痴る。


「……クロムってスミアに甘いよね」
「何、嫉妬?」
「燃やすわよ」



日常になる非日常
(進軍が遅い?仕方ないわよこの軍突っ込み少ないし)(この先不安だなぁ……)
Dear, My Doll.