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 ──スミアにペガサスを預けてからまたしばらく後のこと。見渡す限りの銀世界の中、クロムら一向はとある門の前に立っていた。


「う〜〜寒い……寒いよー! フレデリクー!!」


 何故フレデリクを呼んだかは分からないが、リズはそう言って縮こまった。イーリスにいる限り味わえないであろう極寒に震えるばかりだ。
 フェリアはイーリスよりも北に位置し、寒冷な気候である。このような吹雪は日常茶飯事らしいが、イーリスの気候に慣れきったリズでは耐えるのが厳しいらしい。


「はい、リズ様。私を風避けにお使いください」


 それでいいのか。誰かから漏れた呟きは、フレデリクに届くことはない。
 たしかに鎧のお陰でかなり面積は広い。リズくらいなら風避けになりそうだ。


「……ん? フィシカの姿が見当たらんな」
「まさか逃げたのでしょうか?」


 この軍で二番目に薄着であろうフィシカ──一番は言わずもがなヴェイクである──の声が聞こえない。ソールの馬にいるのかとも思ったがどうも違う。
 フレデリクの問いかけをサラリとかわしたクロムは静かに辺りを見渡した。


「ちょ……フィシカ、どこ触って……!?」
「無理寒い死ぬ」
「だから脇腹やめ……っ!!」


 後方でフィシカとルフレの声。
 何をしているんだ、と思わず問いそうになる。──しかしフィシカの姿がない。その代わり、


「……ルフレ、お前そんなにがたいよかったか?」
「失礼な」


 ルフレのローブがやたらと盛り上がってる気がする。というかモゾモゾと動いている。人間一人ではなし得ない動きをしながら蠢いていた。


「……ふぉ!? って! フィシカ、お前わざと触ってるだろ!」
「触られたくなかったらローブ寄越せ」
「嫌だよ無理だよ、っていうか出ていけ!
 自分の羽織の前閉めろよ! 僕のローブなんだと思ってんの!?」
「私の温まるための場所」
「てめぇぇぇぇ」


 ルフレのキャラが段々崩壊している気もしなくもない。クロムは少しあきれた様子でルフレの後方に回る。
 おそらく、自分の考えが正しければ──。


「……何してるんだ、フィシカ?」
「二人羽織!」
「二人羽織!じゃないっ!!」


 ルフレのローブの下にフィシカがいた。身体を縮こめてルフレの身体に抱きついている。正直物凄く窮屈そうだ。


「……私の見解では、その格好は動きにくいと思うのですが」
「ん、確かにねー」


 ミリエルの言葉にフィシカは同意を示す。
 寒さを感じていないようなミリエルにはある意味感嘆すらしてしまいそうになる。もっとも、彼女は寒さを感じていないのではなく、そんな態度をしていないだけだが。


「とりあえず出てくれ」
「えー」


 渋るフィシカをクロムはルフレから引き剥がした。ありがとう、と小さな呟きはクロムの"耳"には届いている。──が。


(──何故、)


 クロムの"心"には届いていない。感じた違和感に心をとられていたから。
 さっきも体感した、胸の痛みと違和感。傷も、身体に不調もないはずなのに。
 ルフレに抱きつくフィシカを見つめるのは、何故だか胸が締め付けられるようで。

 苦しい。痛い。
 吐き気を催すような、そんな感覚。


「クロム、どーした?」
「……いや」


 あの鈍感男ヴェイクにまで気づかれるとは、いったいどれだけおかしい様子なのか。
 これほど自分を客観的に見てみたいと思うのも珍しい話だろう。


「うー……寒い。クロムマントー」
「うお?」


 悩んでいるとマントがからだごと引っ張られた。ふとそちらを見ると、其処には己のマントにくるまったフィシカの姿。


「フィシカ?」
「上着閉めても寒かった。ルフレがダメならクロムのマントー」
「ちょっと意味がわからない」


 この少女はいったい、人の衣類をなんだと思っているのか。
 と、気づく。


(……痛みが、消えている)


 先ほどまで感じていた、あの痛みがなくなっている。
 どういうことだろうか?
 そんなことを考えつつも、マントにくるまるフィシカの姿を見ると口元が綻ぶ。笑みを浮かべるフィシカは戦闘時とは違ってとても幼く見えた気がした。


「青春、だね」


 誰かが遠くで、そんなことを呟いた気がする。白銀の世界に溶けて、誰もそれに答えを返すことは無かったけれど。
 
Dear, My Doll.