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「ま。私が一人で国に入っても仕方ないし、そんなことしたらクロムが罪に問われちゃうし、ね」


 ふふっと軽く笑いを溢して、フィシカはつま先を城の縁から出す。
 驚きの表情を浮かべる女性を気にも止めず、フィシカはその体を空中へと投げ出した。


「フィシカ!?」


 全身に雪混じりの風を受ける。冷たい風が、フィシカの肌を刺す。
 風を受け流すように、体を反らして。


「っ、よ、っと!」


 雪の絨毯に着地した。しかし、踞ったままフィシカは動かない。
 どうしたんだろうか。心配したルフレがフィシカに近づくと、ガバッと立ち上がった。


「足が、痺れ……痛い……っ」
「ねえ、聞くけどフィシカって一応元義賊だよね」
「一応って酷い!」


 涙声で訴えるもその訴えはルフレによって流された。
 非道、鬼、悪魔と悪口のオンパレードをしてみるもソワレに頭を殴られそれは終わってしまった。


「まったく、心配したんだよ。その能力は凄いけど、ボクたちも気付けないなんてね」
「こういうタイプの能力って、仲間にも気づかれちゃ意味ないんだよ。仲間が気づいてたら目線や反応が変わるからね、バレるのよ」
「お二方、お話は後でにしてください」


 んんっ、とフレデリクの咳払いが聞こえる。
 そうだった、今はそういう場合じゃないんだったとフィシカは踵を返して城の上を見上げた。


「……げ」


 思わず小さな声が漏れた。あの女性の両脇に、多数の槍を持った兵士たち。
 構えは投槍の構えそのものであり、戦う意思を見せているようだった。


「うっわー……煽っちゃったかなぁ」
「ふむ、投槍とは貴族的に美しくないね。まぁおそらく、フィシカ君が話にいかなくても彼らは──」
「フィシカさん、ヴィオールさんふざけていないでください!」


 別にふざけてるわけじゃない。そういう視線をフレデリクに送るも、彼は完全に無視をしてしまう。
 フィシカの扱い方を覚えたのだろうが、少しつまらない気もする。


(って、本当にふざけてる場合じゃないのよねー……)


 面倒。小さく口のなかで濁して二本短剣を構えた。ここからでは、投げてもおそらく届かず落ちてくるだろう。
 さて、どうしたものか。


「ふん、貴様らが特使だというのならば我がフェリアの流儀で見極めてやる。
 イーリスの王子は腕が立つと聞く! 本物を名乗るならば力を示してみよ!」
「くっ、このままでは姉さんに面目が立たない……」
「エメリナ様の面目を崩してるのはほとんどフィシカだよね」
「ちょ、私の扱い酷くない!?」


 女性の声に呼応するように、兵士達は槍を引いた。それを受け流すように漫才をしているのはクロム、ルフレ、フィシカの三人。
 戦いにくい。フェリアの兵士は皆がそう思った。


「問答無用!!」
「戦いにくいからって勝手にはじめちゃったんだよ!?」


 リズの突っ込み虚しく戦いは始まってしまう。
 降り注ぐ槍は、クロムに向けて。なんとも無礼な奴等だ、とフィシカは心底思った。


「ミリエル、ウィンドある!?」
「申し訳ありません。先ほど輸送隊に預けてしまいました」


 ルフレの叫びにミリエルは冷静に答えてしまう。
 さて、どうしようか。フィシカは白い雪に覆われた大地を踏みしめ──


「クロム、少し伏せて」
「──っ!」


 思い切り、蹴る。加速を待たずしてトップスピードに乗り、そのまま跳んだ。


「馬鹿、フィシカ!!」


 そんなことをすれば、お前が槍に!
 そんなクロムの杞憂虚しく、何かに弾かれるように──
 槍は、軌道を変えた。


「、っと」


 着地したフィシカの足元に降り注ぐ槍の数々。その切っ先は折られていたのか、刃が見当たらない。
 どういうことだ、と混乱しているクロムとルフレに、フィシカが言う。


「一回限りのだまし技、かな。
 私がいるっていう認識ずらして、短剣つかって無理矢理叩ききったの」
「淡々と語りながら凄いことするよねフィシカって……」


 ルフレが小さく「この子もうやだ」と呟く。果たしてフィシカはそれを聞いていたのだろうか。


「放て!!」
「って……また!?」


 どんだけ槍を投げるの! と突っ込むも、足が動かない。相当の体力を使うようだ。
 完全にフィシカに気をとられていたクロムも反応に遅れてしまう。
 まずい、このままじゃ──


「──……え?」


 フィシカとルフレの視界から、クロムが消えた。
Dear, My Doll.