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どこにいった?
まさかクロムがフィシカとおなじように認識をずらすなんて出来るはずがない。
ルフレとフィシカが顔を動かしながらクロムの姿を探していると、フィシカの耳に突如として何かの音が届いた。
まるで、羽ばたくような音が──
「ペ……ガサス?」
ルフレはフィシカの声で勢いよく上を向いた。そこにいたのは一頭のペガサス。
そしてそのペガサスに乗っているのは。
「スミア!」
先ほどペガサスの治療のために隊を離れたスミアだった。
その表情は先ほどまでのドジッ娘スミアではなく、天馬騎士のもの。凛々しく空をかけるスミアに、ルフレ含め一向は驚愕の表情を浮かべた。
「やるじゃん」
楽しげに口元を歪ませるフィシカ。
いったいどこからその余裕が出てくるのか知りたい、と思ったのが誰かは言わないでおこう。
「スミア、大丈夫!?」
「はい!」
フィシカが声をかけるとスミアは頷きながら返事をした。
スミアのソプラノが響くと、ペガサスが下降する。
舞い落ちてくるペガサスの羽は白い雪に紛れ、幻想的な空間を作り出していた。
「お疲れ様」
フィシカがスミアの元へと駆け寄ると小さくペガサスが鳴いた。撫でたい衝動にかられたが、なんとなくやめておく。
なんというか、フレデリクの視線がいたい。
「ありがとうございます、フィシカさん。
……良かった……クロム様がご無事で……」
クロムがペガサスから飛び降りる。
そしてすぐさま振り返り、驚いたようにスミアに迫っていった。
「スミア、このペガサスは……?
もしかして、さっき怪我してたあいつか!?」
「え?」
フィシカは思わず疑問符。
先ほどの気性の荒さと、スミアを乗せて天空をかける優雅さ。とても同じペガサスとは思えなかったからだ。
しかしスミアはふふと小さな笑顔をこぼして、クロムとフィシカに言った。
「この子が乗ってもいいって言ってくれたんです」
「そんなことまでわかるのね、すごいな……」
感嘆、という風なため息がもれる。
思わず口許が緩むが、フレデリクとルフレ双方の声によりまたキツく唇を結び直した。
「皆さん、おしゃべりは後でなさってください」
「クロム、敵が来る!」
二人の声に反応し、一行は上を見上げる。第三撃目が来ることは無さそうだが、それでも彼らの臨戦態勢は崩れない。
フィシカは盛大なため息をついて前を見据える。
「やるしかないみたいね……」
「……だな。ルフレ、指示をくれ!」
「了解、クロムとフレデリク、それにリズとヴェイク、ミリエルは僕についてきてくれ。スミアは上から僕たちの背後を頼む、弓にはくれぐれも気を付けて。
それ以外はフィシカ、君が指示を取って僕たちと別行動、出来るかい」
ルフレの語尾が強まる。その語尾が疑問符でないのは、フィシカに寄せる信頼なのか、それとも。
聞いたフィシカは頷きながらも、何処か納得いかない表情。
「なんで、私?」
「え、だってフィシカ軍師補佐だって……」
「なにそれ初耳」
「お二人ともふざけるのは後でなさってください」
「…………」
フィシカが小さく鬼デリク、と囁くとフレデリクは満面の笑みを浮かべた。目が笑ってない怖い。フィシカはただその感情だけを抱く。
それを払拭するようにフィシカは首を左右に思いきり振り、名前を呼ばれなかったメンバーに指示を出す。
「ソール、ソワレ、それにヴィオール。気候も視界もよくはないし、あんまり離れて行動すると何があるか解ったものじゃない。だから、なるべく四人で固まって行動、いいね?」
「あぁ、ボクに異存はないよ。
……ただ、ボクやソールの騎馬兵と君たち歩兵は歩くスピードが違いすぎる」
それはいったいどうするんだい?
そうは言わないものの、ソワレの言いたいことはフィシカにも簡単に分かった。フィシカは人差し指を立て、ウインク。
「さっき、クロムはどうやって槍の雨を避けた?」
「ふむ、貴族的に簡単な問題だね。スミア君のペガサスに乗せてもらった、違うかい?」
「そう」
フィシカは雪を踏みしめる。固くなった足元の雪を蹴りあげて、フィシカは一本の短剣を構えた。
消える。フィシカの姿が、三人の前から。
「ぐあぁぁぁ!!」
「え!?」
突如聞こえてきた叫び声。驚いたようにソールが振り返ると、そこでは膝から崩れていく兵士の姿。
「……会話中に戦闘しちゃダメって習わなかった?」
その背後に凛々しく立つのは紛れもなくフィシカで。先ほどまでフィシカがいたところは雪が削れてること以外は何の変哲もなかった。
「まぁ、とにかく」
仕切り直すようにひとつ咳払い。ヴィオールがフィシカを此方に来るよう促すと、フィシカは口元に淡い笑みを浮かべて歩み寄った。