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「あーらら……ルフレ達はまだ来てなかったか」


 ソワレの馬から飛び降りて、フィシカは前を見据えた。そこにいたのは、あの大きな鎧を着た例の女性。
 フィシカが挑発するように笑顔を見せてみるも、女性は凛と立ちはだかるのみ。


「たった四騎で、あの軍を退けただと?」
「んーまぁ、そういうことね」


 正直フィシカ一人でやったと思う。そんなソワレの心の突っ込みは誰にも届かない。
 それを知ってか知らずか、フィシカは手を差し出して語る。


「だから、武器をおろしてくれないかしら? さっき兵士にも語ったけど、私は戦いが嫌いなの」
「それは無理な相談だな」
「……ですよねえ」


 はぁ、とひとつ大きなため息をついてから、フィシカは短剣を構えた。ステップを踏みながら、フィシカは口を開く。


「槍を切った所で退いてくれそうもないし……。……行くよソワレ、ソール達は援護お願い!」
「あぁ!」


 大地を軽やかに、力強く蹴った。瞬く間にフィシカは女性の前へ──上方へ跳び、短剣を振りかぶる。


「アーマーナイトはその鎧の大きさゆえに早い動きに弱いんだよ、ねええ!!」


 勢いよく、それを降り下ろした。短剣は確実に、女性の鎧をとらえ──

 キィン、と独特の金属音が響き渡る。フィシカはハッとし、女性の顔を見た。女性は不敵に笑い、槍を構える。


「ま、じで、か──」
「アーマーナイトの鎧は頑丈だと、習わなかったか!」
「フィシカ!!」


 女性がつき出した槍をソワレが受け止める。その隙にフィシカは女性と少し距離を取った。
 すかさず、ヴィオールが二人に声をかける。


「諸君、道を開けたまえ!」
「ヴィオー、ぎゃぁあっ!?」


 フィシカの頬スレスレに矢が飛んでいく。それこそフィシカの頬に当たるんじゃないかというくらいに。あぶない。


「ヴィオールアンタ何してくれてんのよ?!」
「ふむ……やはり矢は効かないか」


 叫ぶフィシカを悠然とかわすヴィオール。そのちぐはぐな光景を横で見ているソールはというと何もせずソワレの帰りを待っていた。


「こら、落ち着くんだフィシカ。ソールからも何か言ってやってくれ」
「え? うーん……。……ヴィオールの自業自得じゃないかなぁ」
「おぉう……酷いじゃないかソールくん……」


 ソールは完全にフィシカの味方になってしまった。当の本人フィシカはというと、猫のように這いつくばってヴィオールを睨み付けていた。
 手が雪で冷たくないのかと、多少心配になる。


「……しかし困ったな、ボク達じゃ彼女に傷をつけるのは難しそうだ」
「だね。……確かアーマーナイトには魔法が有効だって聞いたような気がするけど……」
「残念ながら我々の隊に魔法を使う者はいないからね。……はて、どうしたものか」


 三人の会話を見ていたフィシカは立ち上がって、手についた雪を振り払う。
 彼女の長い髪が、揺れた。


「……まぁ物は試しかな」


 フィシカが上着の裏を探る。そこから出てきたのは小さな玉だった。
 それが何か分からないソール達は疑問符を浮かべてその玉を見つめる。


「これは?」
「異大陸の光魔法をこの中に詰め込んでるの。威力はないけど目眩ましくらいにはなるはずだから──」
「っ!」


 フィシカは玉を雪の地面へ叩きつけた。光が弾け、そこにいたすべての人間の視力を奪う。


「……何処だ!?」


 視力が戻った頃には、フィシカは元の場所にいない。どういうことだ、と女性は混乱。
 ざく、と雪を踏みしめる音がした。


「此処だよ」
「!」


 女性が振り向くと同時に、フィシカの短剣が降り下ろされた。


「……お」


 女性はギリギリのところ、槍で短剣を受け止める。しかしフィシカは口元に笑みを浮かべたまま、右手を短剣から離す。
 何故こんなにも余裕そうなんだ。そんな問いかけに答えは返ってこない。
 そのかわりに──


「本当の狙いはこれじゃないのよ……!!」
「……!?」
Dear, My Doll.