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「はぁぁぁっ!!」
「──!」
女性の鎧の僅かな隙間に、冷たい鉄が突き刺さる。
鎧の隙間からは確かに熱を帯びた真紅の液体が流れ出ていた。
「キ、サマ……!」
「……確かに私は戦争が嫌いよ? だけどそれはあくまでも個人≠フ意見。
軍として必要ならば、最低限の殺生をするし囮にだってなってやるわ」
女性がフィシカの視線を追うように顔を動かす。
そこにあったのは、イーリス王家の聖痕。青い前髪の隙間から覗くのは、確かな闘志。
「……にしても、クロムにもレイピアなんて使えるのね」
「嫌みか。これでも一通りの訓練は受けている」
「あっはは、わかってまーす」
酷く愉快そうにフィシカが笑う傍ら、女性は苦痛に顔を歪める。
しかしながら女性は身を動かし──
「はっ!」
「おっ」
その鉄を振り切り、二人から距離を取る。
クロムが持つ細剣──レイピアから滴る血は、雪を真っ赤に染めていった。
錆になるなぁ、と小さくフィシカは呟いて女性を見つめ直す。彼女の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。
「流石ね、フェリア国境兵将軍。さっき貴女にいったこと、訂正するわ。貴女は強い。……だけど目に見えているものが、本当に真実かなぁ?」
「ふん、また目眩ましか? 悪いがもう──」
「違うわ」
ニコッとおぞましい程に、美しい笑みを浮かべた。女性が身震いした、その瞬間だった。
「行きます、ファイアー」
「サンダァーッ!!」
「な……ッ、がぁぁ!?」
女性の背後で交錯する焔と雷。自然の摂理に反するような動きをするその二つは女性の鎧をとらえる。鎧を侵食され、女性は呻き声をあげた。
それを見たフィシカは満足そうに唇に弧を描いていい放つ。
「アーマーナイトの鎧が頑丈? そんなの分かってるわよ、ただ試してみたかっただけ。
そんでもって、私の本命はクロムのレイピアじゃないわ。アーマーナイトの鎧が魔法に脆い≠チて……習わなかったかしら」
「すべて、見越してたというのか……!?」
「まさか。クロム達が来なかったらこっちはじり貧で負けてたし、もっと早くに来てたらこんな奇襲は出来ないわけだし──」
焔と雷が晴れ、女性は蹌踉(よろ)めく。向こう側にいたのは魔道書を抱えたミリエルとルフレ。
フィシカは二人を一瞥し、女性に背中を向ける。
「私が止めをさしたわけじゃないけれど、まぁ取り敢えず──勝ちは頂戴するわ、国境兵さん」
女性の重々しい鎧が、地面に打ち付けられた音がした。
†
「ぶ、無礼な振る舞いの数々……ッ、心よりお詫び申し上げます……! その力、そしてお噂に聞いていたその剣技……疑いようもありません」
「ちょっと待ってキッカケつくったの私だし止めさしたのルフレだし、なんでクロムの疑い晴れてんの?」
フィシカのもっともな突っ込みに返すものはいない。常識人である騎士二人は同じことを思ったようだが、あえて発言はしない。してはいけないような気がしたからだ。
しかし女性はそんなフィシカを歯牙にもかけずに続ける。
「すぐにクロム王子のご来訪を伝えます。王都までは、私がご案内しましょう」
「そうしてくれると助かる」
「ねえヴェイクなんで最近私無視されるの」
「俺様に聞くなし」
ですよねー、と棒読みに返したかと思えば肩を落とす。無視されるの慣れてないのよ、と呟きが聞こえたのかソールがフィシカの頭を撫でた。
女性はやはり歯牙にもかけずに先に行ってしまう。
「?」
そんな中、ルフレは一人しゃがみこんで何かを拾う仕草をした。しかしそれは一瞬で、すぐに立ち上がり女性の背中を見つめる。
「……態度が一変したな」
「フェリアの民にとって、それだけ強さとは重いものなのでしょう」
「じゃあいこうか、お兄ちゃん」
「ああ。フィシカ行くぞ」
クロムは自然と手を差しのべる。それを不思議に思ったフィシカだったが──
「あ……」
「? どうした」
「……ううん、なんでも」
何かを思い出すように、クロムの瞳を見つめていた。
嫌いなの。
(…っていうか聖痕の存在意味って…)(…そこは突っ込むな)(僕を忘れないで…)(ぎゃああああ!?)(おちつけフィシカそれ仲間のカラムだ)(えっ)