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「……あれっ」


 鎧の女性──ライミにつれられ、闘技場らしき建物の内部を歩んでいると、フィシカが小さく声を漏らした。
 それに真っ先に気づいたのはクロムで、足を止めてからフィシカの表情を伺う。


「どうした?」


 フィシカの表情には焦りが浮かんでいて、柄にもなく泣きそうだ。
 クロムの声に反応してか、ルフレも同じように歩みを止めた。因みに、少し怪訝な顔をしながらである。


「ブレスレット、無くした、かも……」
「……あの、オレンジ色のブレスレットか?」


 初恋の人からもらった、と付け加えかけて、やめた。それを言ってしまえば、その言葉がクロムの心を焼いてしまうことを知っていたから。
 何故そうなってしまったのかは、知らないが。


「うん、どうしよ……。あれが無かったら、再会したときに気づいてもらえない……」
「そんな大事なものなら肌身離さず持ってなよ、それに今はフェリア王との謁見が──」
「肌身離さず持ってて無くしたから焦ってるのよ! ああもう、どこいったの……」


 苛立ちを覚えたフィシカは小さく舌打ちして辺りを見渡す。当然、そこいらにおちている訳はなく、小さく肩を落とした。
 見かねたらしいクロムは苦笑いを浮かべて、フィシカの頭を小突く。


「探してこい」
「え? でも……」
「大切なんだろう、あのブレスレットは。大丈夫だ、砦にいたときにつけてあったのは俺が見ている」


 そういうクロムにフィシカは口元を緩ませる。対して軍師ルフレは苦虫を潰したような顔をして、急き立てるように反論した。


「クロム、そんなの許せるわけないだろ? 今から僕たちはフェリア王に会うんだよ? なのに──」
「確かにフェリア王との謁見は重要だ。
だが、フィシカにとってあのブレスレットは大切なものだ。元々フィシカは他大陸出身の人間だし、これは俺たちイーリスの問題だからな」


 行ってこい。そう付け足したクロムにフィシカは一礼。
 クロムまじ王子、とか聞こえたような気がするが多分気のせい。


「……よかったのかい?」


 ルフレの声のトーンが少しだけ下がったような気がした。
 歯牙にもかけないといった様子で、クロムはルフレの瞳を真っ直ぐと見つめる。そこに濁りは存在しない。


「素性の分からない、元義賊を他国で自由にさせて」
「素性が分からないのはお前もだろ、ルフレ」
「……うっ。いや、まあそうなんだけど……。……でもフィシカはなにを考えてるのか僕には分からない。もしここで盗みなんて働いて──」
「ルフレ」


 咎めるように強い口調でクロムは言った。思わずたじろいだルフレは小さく声にならない声を漏らす。


「あいつは敵じゃない」
「、でも……っ」
「俺を信じろ」


 有無を言わさぬその瞳に、ルフレは少し俯いて黙ってしまった。
 少し言いすぎたか、とクロムが後でルフレに謝りにいくのはまた別のはなし。
Dear, My Doll.