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「るふー、まだ謁見はじまってない?」
「一応は始まってないよ」


 大広間。遅れてついたフィシカは扉の影から中を伺う。気づいたのは偶然かそれとも必然なのか、ルフレだった。
 言葉を聞いたフィシカは安堵の表情で大広間へと入っていく。心なしか、晴れ晴れとした表情だ。


「あ、フィシカさんっ。どう? 見つかった?」
「うん、お陰さまでね」
「そっかぁ、よかった!」


 リズの笑顔につられて自然と笑みが漏れてしまう。それほど彼女の笑顔は無邪気で、同時にフィシカとは"真反対"であった。


「ライミさんは?」


 キョロキョロと辺りを見渡す。そこに屈強な鎧を纏ったライミの姿はなく、どうしたものかと頭を捻った。
 そんな疑問に答えたのはまたしてもルフレ。


「王様を呼びにいってるよ。どうやら王様は、留守みたいだから」
「留守? 王様が?」


 浮かんだ疑問文。いくら急な訪問とはいえ、王が政を放り出して留守。とは言っても珍しいことではないか。
 ずぼらな王様なのだろうか。そんな噂は風に乗ってもこないのだが。
 唸っているとクロムが答えを返した。


「政治より戦いが好きな人だと聞いている。訓練所にでもいっているんだろう」
「……そんな王様で大丈夫なの?」
「大丈夫、問題ないでしょう」
「ふれでっきゅんが乗ったですって!?」


 何かが吹っ切れたふれでっきゅんが乗ったことにフィシカは軽くめまいを覚えたらしい。
 そんなフィシカを見てルフレは思わず苦笑い。


「……なぜか謂れのない方にまでふれでっきゅんと呼ばれた気がするのですが」
「ふれでっきゅん遂にボケた?」
「まだボケてません。そして軽くスルーはしていますがふれでっきゅんはお止めください」


 遂に空耳が聞こえるようになったふれでっきゅんは果たして誰のせいでストレスがたまっているのか。
 その答えを知っているのはおそらく神様だけだろう。


「それにしてもー……戦い好きの王か。筋骨隆々の、ごついひとなんだろうな……」


 少しの興味心と、畏怖を抱いた表情でルフレは言う。
 それを見つめるフィシカの瞳は、底冷えするようですらあった。
 それに気づいたのは、果たして誰かいたのだろうか。


「誰がごついって?」
「!」


 突如として、凛々しく猛猛しさを秘めた女性のハスキートーンが響き渡る。

 空気が、変わった。
 フィシカだけはその空気に呑まれぬようにと、眼光を鋭くして身構える。
 現れたのは、褐色肌の女性。必要最低限以外の手入れをされていないように見えなくもない髪の毛はアップにされている。

 見える腕は女性ながらも程よく筋肉がついているが、残念ながら──といえば誤解を招くが──ルフレが想像した"筋骨隆々のごつい人"ではなかった。
 むしろ、分類するならば間違いなく美人の部類だろう。


「フェリア東の王、なんて名前が仰々しいから構えてみたけど──」


 構える必要はなかったかしら。
 流石にTPOを弁えるだけの常識は持ち合わせているのでその言葉を口にすることは遂になかった。
 それでも、フィシカが醸し出した異様な空気はフェリア王にも伝わってしまう。


「なんだい? 男じゃなくてがっかりかい、そこの子は」
「いえ。王と偏に言っても、様々だなぁと。エメリナ王のように穏やかな者もいれば、あなたのように戦い好きの王もいる。
 出身大陸の…ファヴァー王国前国王ギラナーは娘の殺害を企てるし、……祖国のセルディスト王国の王は、ただの"復讐者"ですしねー」


 けらけらと笑い飛ばすフィシカ。しかしその声に感情は隠らず、寧ろたぎる殺意を押し込めているようにすら感じ取れてしまった。
 その空気を変えるためなのだろうか。フェリア王は口を開いた。


「なんだい? あんた、セルディストの出身か。なら、フィジト王子のことは知ってるかい」
「フィジト王子、ですか。ええまぁ、祖国のことですし」
「そいつから内密に捜索依頼が来たんだよ。"女王"がどうも、行方不明らしくてねえ。あんた、祖国の女王のことは分かるだろう?
 よかったら、なにか心当たりがあったら教えてくれないかい。あそこの国とは、先代王の時から仲良くさせてもらってるんだ」


 フィシカの表情が一瞬強張った。
 しかしすぐに笑って見せたと思うと、また口を開く。


「王子にお伝えください。
 "簡単にくたばる王なら一年前に死んでいる"、と」
「ふふん、随分辛辣なんだねえ?」
「嫌いですから」


 何が、とは敢えて言わないし、敢えて聞こうともしない。
 代わりにフィシカはクロムに一瞬だけ視線を送って、目を伏せた。
Dear, My Doll.