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「……どういうことだ?」


 クロムが怪訝な顔をして、フラヴィアに問うた。

 兵を借りるために、道中屍兵らや国境兵との戦闘を経てフェリアの東の王、フラヴィアとの謁見を果たしたクロムら一行。
 しかしフラヴィアから出た言葉は兵を貸すことは出来ないという、否定の言葉だった。
 加えて告げられたのは、今の自分にはそういった物事を決定する権利がない、ということ。

 その言葉にはクロムやリズだけでなく、物わかりのいいフレデリクや、頭の切れるルフレやフィシカまでもが頭を捻るはめになった。
 そんな一行に、フラヴィアは口を利く。


「うちの国では古来のしきたりで数年に一度、東西の王の闘技大会が開催される。その戦いに勝った方の王が、東西両方の王になるって寸法なのさ。よその国との同盟を結ぶ決定は、その王様がすることになっている」


 連合国故のしきたりか、とフィシカは妙に感心した。

 連合国とは、その名の通りにいくつかの自治体が集まって出来た国。当然、王になりうるものは自治体ごとに出てくる。
 それを話し合いで解決するのは、簡単ではない。だからこそ、闘技大会を行うのだ。話し合いよりもなによりも、簡単な方法で。

 勝った方が、王。強き者が、王。
 軍事国家であるフェリアにとって、これほどまでに相応しい王の決め方は他にはないだろう、と。

 感心するフィシカとは打ってかわって、クロムは落胆したように肩を落としていた。
 ぽつり、言葉が落ちる。


「……ということは、今は同盟を結んでもらえないということか」


 そんなクロムの言葉を聞いて、フラヴィアはイタズラに笑う。
 何処か楽しんでいるような、そんな表情でクロムを一瞥し、言った。


「そう決めつけたもんでもないよ」
「え?」


 思わず、フィシカが意味のない声を漏らした。
 フラヴィアはまた、先程よりも楽しげに笑って、続ける。


「闘技大会はもうすぐだ。大会であんたたちが勝てば、願いを聞いてやれる」
「俺たちが?」


 その言葉が意味することを理解できないほどクロムも莫迦ではない。が、理解出来たからこその疑問だった。


「報告は聞いてるよ。あんたたちの腕は大したもんだ。東軍の代表として、あんたたちが西軍に勝てばいい。そうすりゃ私が王様になって、同盟を結ぶことができる」
「……フェリアのしきたりに、よその国の私たちが出て良いのですか?」


 フィシカが提示したのは、クロムが抱えた疑問と同じそれだった。クロムはともかく、フィシカはイーリス大陸の人間ですらないから余計に疑問だったのだろう。
 しかしフラヴィアはそんなことは歯牙にもかけないと言った様子でフィシカを一度ちらりと見て、口の端をつり上げる。


「ああ。王が選んだ戦士ならね。この大会、王が出るのは禁止なのさ。何代も昔……王が大会で殺されちまってから、血で血を洗う大戦争になったもんでねえ」
「…………」


 "戦争"というキーワードに目を細めたフィシカだったが、今回は本当に一瞬で、誰にも気付かれない。
 フィシカ自身は、分かっていたのだが。悪い癖だと、自分自身心底思うようにはなっているのだから。


「代理戦争で手打ちにするには、うちと縁のない奴を選んだ方がいい。それが他国の王子ってのは初めてだが、どうする?」


 愉快そうに笑うフラヴィアには、どうもクロムを逃がす──と言えば勿論語弊がある──つもりはないようにも見える。
 しばし考え込んだ後に、クロムは口の中に含有した言葉を吐き出した。


「……イーリスでは戦う力を持たない人たちがフェリアの助けを待っている。いつ化け物たちに襲われるかもしれない人たちのためにも、最も短時間で話がつく方法を選びたい」


 クロムのその言い分は肯定。ぱちん、と1つ指をならして、フラヴィアは今すぐにでも駆けていきそうな面持ちで一行に事を伝えた。


「決まりだね。大会は闘技場で行われる。向こうは腕利きの剣士を用意してるそうだよ」
「腕利きの、剣士……」


 フィシカが小さく、復唱した。

 ──ロンクーさん、かしら?

 そんな思いを胸に抱えるも、邪念は直ぐに振り払う。彼は自分の本質を見抜きかけた、ある意味では危険人物なのだから──。

 そんな心中を知ってか知らずか、クロムは心の何処かで楽しんでいるような、しかし目的を見据えたような目でフラヴィアを見つめて、いい放った。


「相手が誰だろうと、やるからには必ず勝つ」
「良い顔だ、気に入ったよ。よっしゃ! じゃあ暴れておいで!!」


 駆け出したフラヴィアの後を、クロム達は追う。
 その闘技場に誰が待っているのか、知らずに──。
Dear, My Doll.