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「フィシカ、お前のその剣技……普通のものでは、ないな?」
ロンクーが額に流れる汗を拭いながら、対峙したフィシカを見据える。
対してフィシカは同様に汗を拭いながらも、余裕の笑みを浮かべるのだった。
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──遡ること数十分前。
「おおー!? 凄いじゃないか! あんたたち!」
少し前に一際大きくなった歓声が嘘のように静まり返り観客が全て帰って、この闘技場にいる人間がクロムらやフラヴィアだけになったころ。
走って駆け寄るのは、クロムの事実上雇い主となっているフラヴィアだった。
試合の結果としては、クロムたちの辛勝だった。勝ったには勝ったが、圧勝というわけでもない。
フィシカはというとマルスとクロムの決着を見損ねたことがショックだったようで、ぶつくさとルフレに文句を言いながら自分のナイフを回収していた。
回収するくらいなら投げなければいいと思うのだが、屁理屈だろうか。
「これでイーリスとフェリアの同盟は成立だ。約束通り、兵は出すよ!」
「本当か! 感謝する!」
「…………」
なんと軽い同盟締結だろう。それがフィシカの率直な感想だった。
フィシカは国政に疎いわけではない。むしろ常人よりは詳しいと自負している。
勿論義賊になったときに覚えられるだけ覚えておこう、と勉強したのも理由である。が、本来はもっと違う──根本的なところから、フィシカはそういうことに詳しいのだ。
もっともそれを言うつもりは、更々無いが。
「それはこっちのセリフさ。なにせ久々の勝利だ。今夜は祭りだよ!」
そう言いながらフラヴィアは走り去っていく。それを渋い顔で見つめるフィシカは、ふぅと小さなため息をついてクロムを一瞥。
その横顔には希望が見てとれて、思わず小さく笑った。
「やれやれ、盛り上がってるな」
突如、聞きなれない声がした。一同は同時にその声のする方を向く。
そこにいたのは、いつだったかルフレがいっていた"筋骨隆々"が相応しいような男の姿。頭を覆う毛はないが、不思議とそれが似合っている。
眼帯をつけたその男を不信に思ったのか、クロムが小さく口を開いた。
「あんたは……?」
初対面に向かっていきなり"あんた"は無いだろ!
そんな誰かの──というかルフレの心の叫びは届かない。ここで仮に口出ししても相手にされないのがオチだろう、と、半ば諦めていた節もあるが。
「西の王をやってるバジーリオだ。よろしくな、王子さん」
ニカッとバジーリオは笑って一行をなぞるように見る。まるで品定めするかのような瞳に、ルフレは同じく笑って応える。
一方で、フィシカはすこしだけ眉を寄せ、その視線から逃れるように一歩引いた。見られるのは苦手、と一言残して。
「しかしお前さん、いい剣を使うな。うちの代表もいい線いってたんだが……」
「あいつは何者なんだ?」
「んー……実は俺もよくわからん」
「はぁ!?」
フィシカが思わず声を荒げる。しまった、と言うように口を抑えるも、言ってしまった言葉は取り戻せない。
一国の王を相手に何をいってるんだ──そんな思いを抱え顔面を蒼白させたルフレを他所に、フィシカはまずったと思いつつも言葉を紡ぎだした。
「……国政を握っている戦いだと言うのに、随分と簡単に代表を決めたんですね?」
「言うじゃねえか、お前さん。ま、簡単ってわけじゃねえ。ふらって流れてきてうちの代表を軽く倒しちまってな。これは……! ってことで、無理矢理口説いた」
「……だからってペレジアや隣の大陸から来たスパイという可能性を捨てきれないでしょう?
さっきの同盟締結のときも思いましたけど、この国は危機感なさすぎませんか……!?
強さが全てなこの国を否定するつもりはないわ、だけどいくらなんでも……ッ!!」
「待ってフィシカ!」
「……ッ」
ヒートアップして敬語も無くなったフィシカを、ルフレは片手で制する。
やってしまった、と項垂れたフィシカを怪訝な瞳で見るルフレ。
クロムが不思議そうにどうした、と聞くとフィシカは小さく呟くように言った。
「……祖国の先代王フィーンは、娘の危機管理能力の甘さによって命を落とした」
「え?」
「同盟を結ぶため=Bそういって来た他国の使節を王の娘が案内している最中、後ろからその使節が娘を斬ろうとしたのよ。
先代王はそれを庇って……。しかも娘に危害を加えないようにと、本来なら使えたはずの光魔法すら使わずに。……それが致命傷になり先代王は命を落とし、祖国は戦火に包まれたわ。
だから私は危機管理能力の甘さを疎んじるし、忠告する。……私の大嫌いな現女王が起こした惨禍を、もう二度と起こさせないために」
ギリッと歯を食い縛り、真っ直ぐとバジーリオを見つめる。
その瞳には──まるで自分自身を戒めるかのような、炎が宿っていた。