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「──って、待てよ! 同盟結んだ直後に、なに戦おうとして……っ」
しかもフィシカ、さっきお前戦いについて熱弁してたじゃないか!
付け加えると妖しく笑いながら、フィシカはルフレの姿を見る。おぞましいほどに澄んだ瞳に、ルフレは柄にもなくゾッとした。
「戦い、じゃなくて手合わせ、なんだけどなぁ……。……なら私はイーリス自警団としてじゃなくて、レストーネ大陸の人間としてロンクーと手合わせするわ。これなら問題ないでしょう?」
「そ、んなめちゃくちゃな……!」
「……俺も元々この大陸の人間じゃあない。フェリアとイーリスの同盟に関与はしない。……これで文句はないだろう」
「ロンクーまで……!」
「ってことでルフレ、剣貸し──……は、ダメね。イーリス自警団として手合わせするわけじゃないし」
仕方ないか。小さくそう溢して、フィシカは上着の裏から短剣を取り出した。
それはいつも使うような、質素なものではない。片時も手放さず、いつも大事に丁寧に扱い続けていた、豪勢な様相をしたあの短剣。
鞘つきのままそれを天へ掲げ、一気にそれを降り下ろすと──。
「……ッ!?」
一瞬、まばゆい光を放ったかと思えば、それは短剣を包み込む。光が伸び、その剣の全貌が明らかになって、ルフレは、クロムは、否、その場にいた殆どの人間は、息を飲んだ。
「……剣士と対等に戦うには、やっぱり長剣でしょ?」
口元に弧を描いた彼女の右手には短剣ではなく──、同じく豪勢な装飾を施された、長剣があった。
まるで、短剣がその長剣へと変化したかのような、そんな長剣が。
「何がっ……!?」
「ちょっと特別な剣、なのよね。先代王から盗ませてもらったわ」
「んなぁッ!?」
「別にいーんだよ、現王から許しももらってるし」
危機管理能力云々言ってたわりにはそういうところは甘いんだな……と複雑な気分。先代王から剣を盗んだり、しかも現王から許しをもらったり。
彼女は、本当に何者なのか。
ルフレが導く答えの真偽は分からないが、いくつか彼女の正体についての候補はあった。
もっとも有力なのは、王家直属機関の者、という可能性だった。それならば現王との関係めあるだろうし、何より義賊活動は義賊という"偽善"ではなくなるし、むしろ王家から命ぜられた盗みと言う名の民への救済、謂わば"偽悪"にだってなるのだ。
そしてもうひとつの可能性は──
(……まさか、な)
ルフレ自身"それ"を肯定することもできず、そして信じられなかった。
というよりも──そんなことよりも、目の前の事案について考えることが最優先だったのだ。
「……あのさ、フィシカ。手合わせを真剣でするつもりかい?」
「ん? ええ、それがどうかした?」
絶句。訓練用の剣だって、輸送隊に行けばいくらだってあるのに、何故リスクの高い真剣でそれを行うんだ!
そんなルフレの思考を読み取ったかのように、一度笑って踵を反した。
「だってほら、何事も真剣勝負って言うじゃない?」
「真剣の意味が違う!」
「……なら、何処かで聞いたけど。互いに痛みを与えあう、それが愛ってものなんだってさ」
「お前愛を勘違いしすぎだと思うよ!」
「まぁまぁ、そんなルフレもかっかせずに。──さぁ、ロンクー」
右手に剣を持って、身を引く。それを見たロンクーは、両手で剣を持ち、腰を低くして構えた。あれが、彼の流派での構えかたなのだろうか。
そんな考えが脳裏を過る。が、隙を見せる暇はないのだ。
必然的に入れ替わる身長差。フィシカは何処までも澄んだ冷たい瞳でロンクーを見下ろし、ロンクーは闘志の炎を秘めた眼でフィシカを見上げた。
満足そうに笑み、フィシカは言う。
「じゃあ、ロンクー? ──愛死(し)殺試合(しあ)おうじゃない!!」
闘技場の残酷な空気が、周りを貫いた。