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 ロンクーは、少しだけ違和感を覚えていた。と、同時に、彼女の素性についてある予測を立てていた。
 あいし、ころしあおう──愛死、殺試合おう。彼女は自分に向かって、そう言った。


「……はぁッ!!」


 抜き身の刀が、空を切る。すばしっこいフィシカの動きを捉えようとするそれが、鈍く光った。
 ルフレとやらの反応を見たり闘技大会での彼女の言葉を聞いていると、彼女はどうやら戦争≠ニ言うものが嫌いらしい。
 原因はおそらく先程語った、彼女の祖国の先代王が殺された理由からだろう。

 しかし彼女は手合わせすることを嫌っているわけではないらしい。
 愛すること、死ぬこと、殺すこと、試合をすること。全てを引っ括めた言葉を、彼女は何故自分へ投げかけたのか。

 あれから一瞬で、さまざまな思考を張り巡らせた。
 一番最初に辿り着いた思考は、ただの言葉遊び。一度ルフレに語った「愛とは痛みを与え合うこと」に関する言葉遊びだとも思った。

 だが、違う。「痛みを与え合う」ことと「殺し合う」ことを彼女は、同等にはみなしていない。


「……ッ!」


 つばぜり合いになれば男女の力量差が講じてか、ロンクーが有利になる。
 が、つばぜり合いになった途端、彼女は直ぐ様自分の元を離れるのだ。
 ──こういうところから、彼女は自分を殺そうとしている訳ではないと察していた。

 そして、殺されまいとしようとしていることも。それでも真剣で挑んできたのは、つまり"そういうこと"だろう。


「……ふっ!」


 まるで舞を踊るように、流麗な動きでフィシカは闘技場を駆け巡る。このような剣技は、あまたの剣士と戦ってきたロンクーと言えど見たことがなかった。
 斬ろうとし、剣──というよりは、刀を振り抜いた時、既にそこに彼女の姿はない。そんなことはすでに承知済みで、その刀を自分の上へと持ってくる。

 直ぐ様甲高い金属音が鳴り響いた。目線を動かすと、上から"降ってきた"のはフィシカ。


「……軽いッ!!」


 それを弾き返し、彼女の着地するであろう地を見返す。

 ──剣は嘘をつかない。
 それがロンクーの持論であった。そして剣から伝わってくる"感情"もまた、嘘ではないのだ。

 ロンクーがフィシカの剣から読み取った感情。それは「人に飢えている」ことだった。

 彼女の本質。
 それを自分は「龍」と形容した。もしそれが本当ならば──彼女は、愛とはほど遠い場所で暮らしてきたのではないか?

 たとえば王族。バジーリオを見ていて知っていたが、王族とはきらびやかな名前とは真反対に、忙しい日々を送ることになる。
 それもフィシカくらいの歳ならば、王政のことを学ぶ日々で、誰かを愛し、誰かに愛されることもないだろう。
 そしてもっとも近しい者が──死んだのならば、尚更。

 そんな考えから、ロンクーは彼女の素性について思案し、同時に少しだけ哀れんでいた。そしてその考えは、的中している。

 彼女は、人に飢えていた。人を愛することを望み、人により殺されることを望んだ。
 そして──


「甘いッ!!」
「……!!」


 舞のような動きに惑わされ、ロンクーの反応は少し遅れる。
 が、そこは剣のスペシャリストのプライドが、簡単に背後は取らせない。

 フィシカの脇腹に一撃。しかしそれも避けられ、二人は間合いを取る。
 息をつかせぬ剣の応酬。つかぬ間の休息に1つ深い息を吐いて、ロンクーは1つの疑問を投げ掛けた。


「フィシカ、お前その剣技……普通のものでは、ないな?」


 それを聞いて、フィシカは満足そうににまっと笑う。
 いつの間にか避難していたバジーリオが小さく声を漏らした気がするが、自分には関係ない。
 フィシカの言葉に耳を傾けるように彼女を見つめていると、眉間に力が入ってしまった気がする。


「どうしてそう思ったの?」
「……見慣れない剣技。唯一心当たりがあるにはあるが、それは一般庶民に会得できるものではない。もしそれがそうならば、お前は──」


 ――そう≠セろう?


 声を出さずに、口の動きだけでそう伝える。
 それを受け取ったフィシカは小さく笑い──再び、大地を蹴った。



剣豪と少女は邂逅する
(ルフレ知ってるか、ロンクーが超能力者染みてるのは言わない約束だということ)(なにいってるんだクロム?)
Dear, My Doll.