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──同時刻、???城。
「よぉ、ユズリハ」
「……遅かったじゃないの、ギャンレル? 私もあの場にいたし、貴方より後に切り上げたっていうのに」
「仕方ねえだろ。ワープの杖、こっちじゃほとんど出回ってねえってのにこんなところまで飛んできたんだからよ」
王座に座る、ユズリハと呼ばれた女性は艶やかに笑い、現れたギャンレルを一瞥。その目には崩壊を待つ闇を宿し、破滅を望む光を灯していた。
ギャンレルは少し愉快そうに口を歪めて、ユズリハを鼻で笑う。
「で? 《闇の国》の王さんはどこに?」
「あら、ごめんなさい。我が主人は今、別の国に交渉しにいってるわ。……ああ! 心配しないで。貴国は最恵国。私たちはあなた方への援助を第一に考えているもの」
「はんっ」
ギャンレルの嘲笑に、ユーリは顔色一つ変えない。それどころか笑顔を携えたまま立ち上がり、ギャンレルへ一、二歩近づいた。
その足音に感情は、一つもこもらない。
「私たちは、あなたを裏切ったりしないわ。あなたが私たちの要望を聞き入れてくれるなら、ね?」
しばし、沈黙。ギャンレルはいつしか笑みを崩して、無表情へと変貌した。
やがてぽつりと声を落とす。
「なんだっけなぁ?」
「簡単よ。この大陸に伝わる『聖痕』と似たものを……『龍の儀の痣』を持つ者を見つけ次第、それを私たちに報告してほしいってだけ。捉えられるなら捉えてほしいわ。勿論生死は問わない」
龍の儀の痣──ギャンレルはそれがどのようなものかは分からない。
が、《闇の国》が血眼になって探しているということは、それほどそれを持つ者は重要な何かを抱えているということだろう。
ギャンレルが踵を返す。ユズリハはそれを止めようともせずに、その背中を見送った。
取り残されたユズリハは、目元に影を落とす。数トーン落ちた声を、城内に響き渡らせた。
「哀れな男。部下に裏切り者がいると知ってなお、それを最大限利用する。そしてそれゆえ、他人を信じられなくなるなんて、ね。
……ふふ、私は主人様には無二の忠誠を誓ってるから、主人様にそんな想いはさせないけれど。……ねえ、《闇神龍》、キル?」
ユズリハが玉座へ──玉座の後ろへ視線を移す。
あったのは、おぞましいほどの闇だった。そこにあるだけなのに、この空間を蹂躙してしまいそうな闇。
すべてを呑み込んでしまいそうな、闇。
ず、と小さな音がユズリハの鼓膜を揺らす。《それ》は姿を現すことはせず、ただ闇をユーリの足元へと伸ばし、言った。
『……もー、やめにせえへんか。俺の《破滅》の力は、こういうことに使うんやあらへんで』
訛りを交えた言葉はユズリハの心には届かない。闇がユズリハの足にまとわりつく。しかしそれを恍惚の表情で眺め続けて、笑った。
そこにあるのは、狂気に近い、主人への愛のみ。
「うふふふふ……もう無駄ってわかってるクセに……かわいい《龍》ね、キル。
取り返しは、もうつかないわ。《光の国》も、《影の国》も、レストーネ大陸……いいえ、この世界の全ては主人様のものになるの……。
……ふふふ、あははははは! 楽しみ、すごく楽しみよ! あははははははははははっ!!!」
ユズリハの笑い声が城内にこだまする。いつしか闇は城を埋め尽くし、ユズリハの姿を隠していた。
蠢きだす暗鬱な闇
(そこに在るのは人の善意か悪意か)(それとも神の悪戯か)