/ / /

「ご苦労様でした、クロム、リズ。それに、フレデリクも」


 イーリス王宮。
 クロムたちに連れられ、訪れた場所には先ほどまで町にいた聖王エメリナがいた。
 何処か神秘的な雰囲気を纏わせたエメリナは凛としており、見るもの全てを魅了すると言っても過言ではないだろう。
 フィシカは少しそわそわしながらも、キチンと立っている。


「山賊は無事に倒した」
「ありがとう……。民たちも皆無事ですか?」


 弟は敬語をまったく使わないのに、この聖王は弟にすら口調が丁寧である。
 なんだろうか、この差は。


「あぁ、大丈夫だ。だがやはり、辺境には賊が蔓延っている」


 賊と言われるたびに首もとがむず痒くなって仕方がないフィシカだったがなんとか耐える。そんなフィシカを見てルフレは薄く苦笑いを浮かべていた。


「それも隣国ペレジアから流れてきた連中ばかりだ」
「申し訳ありません、王子。我々天馬騎士団が動けていれば……」
「いや、フィレイン。今の騎士団の人数では王都の警備で手一杯だ」
「大丈夫だよ、フィレインさん。
 これからはルフレさんとフィシカさんがいるもんね!」


 リズの声にフィレインとエメリナが2人の方を向く。ルフレはどうしたらいいのか分からないようで少しギクシャクしていた。


「ルフレさんとフィシカさんとは、そちらの?」


 控えめに聞くエメリナに対し、フィシカは恭しく一礼。
 エメリナはフィシカの見事なまでの辞儀に少し驚いたような表情を見せた。


「初めてお目にかかります、イーリス聖王国聖王エメリナ様。フィシカと申します。
 恥ずかしながら、義賊として法を犯してまいりました。勿論いかなる処罰も受ける次第でございます」


 今まで見たことの無いような動作と聞いたことの無いような言葉遣い。
 呆気に取られたクロムは無理矢理口を開いていい放った。


「フィシカ、お前……そんな言葉遣い出来たんだな……」
「うふふ煩いわよクロム、私は一応常識人」


 常識人なら王子であるクロムにも敬語を使うはずなのだが。というより、クロムに向けられた笑顔が貼り付けられてて怖い。


「フィシカ……ですか。
 セルディスト王国王女と同じ名前なのですね」
「……はい、恐れ多くも」


 微笑を浮かべるフィシカに、若干の違和感。賊の類いとは思えないような神々しさ。


「セルディスト王国?」
「ええ、私の出身大陸……そうね、レストーネ大陸にある影の国≠フことよ。
そこの王女…じゃないわね、女王の名前がフィシカ。同じ名前なのよ」


 嫌になっちゃうわ!
 と、わざとらしい素振りを着けて話す。本当に掴み所がないというか、よく分からない少女だ。


「しかしな姉さん。ルフレは山賊退治に手を貸してくれた。フィシカは違法貴族に縛られる民を救ってくれていたんだ。
 姉さんが罰さないなら、二人を自警団の新しい仲間として迎え入れたい」
「まあ……弟たちがお世話になったのですね。
 ありがとう、ルフレさんにフィシカさん。違法貴族には私も頭を抱えていましたから……」


 エメリナがそこまで紡ぐ。微笑を浮かべていたフィシカはハッとしたようにクロムに目線を移した。


「ちょっと待ってクロム。私が自警団入っちゃったらお金を村の人に返せないんだけど……」
「……ふれでっきゅんにでもやらせとけ」
「クロム様っ!?」
「ふれでっきゅん……?」
「フレデリクのことなんだよ!」
「リズ様っ!!」


 この調子では本当に一生ネタにされるのだろう。哀れなフレデリクを見てフィシカはしてやったり、と笑顔を浮かべる。二人の間にわずかな火花が散った。


「お、恐れながら、エメリナ様。ルフレさんは記憶喪失とのことで……、フィシカさんも名前以外の素性がしれません。
 賊の一味や他国の密偵であるという疑いが完全に解けたわけではありません」
「フレデリク……!」


 調子を取り戻したらしいフレデリクがすかさず突っ込みを入れる。フィシカから小さな舌打ちが漏れたのだがそれを聞いていたのはルフレのみ。
 そんな中フォローを入れたのはエメリナだった。


「……ここへ連れてきたということは、クロム、あなたはルフレさんとフィシカさんを信じたのですね」


 静かな声に、大きな威厳。これがイーリス聖王国聖王の力量なのだと、実感させられる。


「ああ、ルフレは俺と共に、民を守るために命懸けで戦ってくれた。フィシカは昨夜現れた異形たちを倒してくれた。
 一緒に戦ったからこそ、わかるつもりだ。ルフレとフィシカは信用出来る」
「……そう……」


 クロムの真っ直ぐな視線を見て、エメリナは笑う。柔らかで、とても温かな笑顔。


「クロムが信じているのなら、私もあなた方を信じましょう」
「……!」
「ありがとうございます、エメリナ様」


 また一礼し、エメリナを見つめる。
 本当に綺麗な瞳をしている。強い意思も、優しい心も。彼女は両方を兼ね備えた聖王≠ネのだろう。


「フレデリク、あなたもありがとう。心からクロム達を心配してくれているのね」
「いえ……、クロム様とリズ様をお守りする者として当然の事です」


 本当に堅物だな。フィシカが笑顔で呟いていた。
 そんなことは誰も知らず、リズがフィレインへと話しかける。


「ところでフィレインさん。異形の化け物のことは……?」
「はい、各地に出没しているようで、目撃談が寄せられています」


 おそらく昨日現れた化け物達のことだろう。あんなものが各地に出没しているとは寒気を感じてしまう。
 フィシカは密かに眉を顰め、しかしそれを悟られぬようにとすぐに表情を元に戻した。


「その対策を話し合う会議に……クロム、あなたも出席して欲しいのです」
「わかった」


 なんだか大事になってるなぁ、とかなんとか考えながら遠くを見つめるフィシカ。その瞳には、心なしか何も映っていないようだった。


「わたしたちは外で待ってよっか? 行こ、ルフレさんフィシカさん!」


 走っていくリズに引っ張られ、ルフレとフィシカは王宮を出るのだった。
Dear, My Doll.