破かれた紙。
※誰も報われない
女と言うやつはいつまで経ってもお伽噺のような恋愛を待ち望む。悲しいことにそれは私も同じようで、さっきから何度も何度もラブレターを書いては破き書いては破きを繰り返していた。
否、確かにラブレターを書くだけじゃお伽噺なんてのには程遠いのだろうけれど、そのラブレターを書いている相手が相手だ。なんて言ったって、一国の王子──そして実質白夜王国の王であるリョウマ王子へ宛てた手紙なのだから。
何やってるんだろう。
客観的に自分のことを見た時に出てくるであろう言葉はこれだ。それでも手を止められないのは私がそれだけリョウマ王子のことを慕っている、ということの表れで。
馬鹿なんじゃないのか、なんて自分自身にツッコミをいれつつはぁ、とため息を吐き出して机に突っ伏した。
私は暗夜の貧民街で育った孤児だ。
マークス様の部隊に入るまではただの一般市民だった。レオン様の臣下たるゼロのように、生きるために何でもしてきた。体を売ることも、盗みを働くことも。
そんな私ができなかったことは恋愛と勉強。恋愛は、あんな環境で生きていたあの頃じゃ出来るはずもなく。勉強だって、最初は字すら読めなかった。
マークス様に拾われて、私は漸く基本的な文字は読めるようになったのだ。書く練習もしてるけど、マークス様ほど綺麗にはかけない。まぁ、当たり前か。マークス様は軍の中で一番字が綺麗なのだから。
そんなこんなで暮らしていた私も、恋をした。
マークス様に連れられ、カムイ様の軍に合流して、そうして出会った白夜王国の王子、リョウマ様にだ。一目惚れだった。
身分が全く違う。
釣り合わない。
売った体で近づいていい人じゃない。
そんなことは分かっている。
現に言葉を交わしたことも数回しかないし、それも全てマークス様からの言伝を頼まれてのこと。こんなので恋が実るだとかなんとかは思わないけれど、どうしても伝えたかった。
直接は緊張して無理だと自分でもわかっている。だから選んだ手段はラブレター、なのだが。
……白夜の文字が暗夜のものと同じなのかわからないうえに、汚い私の文字だ。もしかするとリョウマ様は読めないかもしれない。
これは諦めて直接言った方がいいんじゃないか、でもそんなプライベートなことでリョウマ様の時間をとってしまってもいいものか。
そんな葛藤に苦しみながら、書いたラブレターを破いて、でもやはり書きたくて書いて……をずっと繰り返していた。
自分でもバカバカしいって言うのはわかってる。わかってるけど……。
……それでも、私は伝えたいのだ。この想いを。
やるしかない、と突っ伏した机から顔をあげてペンを持てば、目の前に置いてあった紙が消えた。
え、なんで。書きかけだったからまだ捨ててないし破いてない筈なんだけど。
どこに飛んでったんだ、とそこまで思案して気づく。私の後ろに、誰かいる。まさかないとは思うけど敵だったりしたらどうしようもない。
そう思って神経を張り詰めてみたけれど、どうも違う。この雰囲気、私は知ってる。これは。
「随分と熱心に書いているんだな」
「まっ、マークス様!?」
ばっと後ろを振り向けば、そこにいたのは私の主君。なんで、どうして。ここは私の部屋で、マークス様が来るようなところじゃない。なのに。
言いたいことは沢山あったが、それどころじゃない。私がリョウマ様に書いてるラブレター、の書き損じを、マークス様が手に持って読んでいた。
いや、待って。流石に、流石にそれは恥ずかしい! ばっと手を伸ばしてみるものの、マークス様は私の手が届かないように紙を持った手を挙げてしまっていた。
「リョウマ王子への手紙か」
「やめてくださいー! 流石に恥ずかしいです! マークスさまー!!!」
わざわざ改めて言う必要なんてどこにもないでしょ! 立ち上がってぴょんぴょこ飛び跳ね、手紙を取り返そうとする。マークス様はくつくつと喉を鳴らして笑うものの、それを返してくれる気配はない。
隅から隅まで読むような姿を見て私は諦めた。もう、どうにでもなれ。どうせいつかはバレていたことだろうし、もういい。
はぁー、と再び大きな息を吐き出して俯いた瞬間、びりっと紙が破れる音がした。え?
「ちょ、マークス、様!? なにして……!?」
「もう少し私と一緒に字の勉強をしてからの方がいい、誤字脱字が多すぎる」
顔を上げればマークス様は私の手紙を破いていた。た、確かにそれを渡すつもりはなかったし、破くつもりだったけれど、まさかマークス様にそうされるとは思わなくて思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
わかっていたことだけれど、うぅ、やっぱり誤字脱字あったんだ。自分ひとりで書いているとそんなことも気づけなくて困る、けど。
ピエリやラズワルドに相談してもきっと話にならない。ピエリは特に。だから何も言わなかった。
……かといってマークス様に言うのも何か違う気がして、結局一人でやってたわけだ。見つかっちゃったけど。
「う、うー……どうすればいいんですか、マークス様……」
「私の時間がある時で構わないなら手伝ってやろう。なるべく時間を取るようにする」
「ほ、ほんとですか……? り、リョウマ様やカムイ様に言ったりしませんよね……?」
「ファーストネーム、君は私をなんだと思っている?」
「大切な主君様、ですよ」
その言葉に嘘偽りはない。真っ直ぐマークス様に伝えてみればマークス様はふっと笑った。そのまま私の机の上に転がっていたペンを手に取る。
え? と首を傾げれば私に渡してくれる。どうやら今は少し時間があるらしく、早速字を教えてくれるらしい。なんだかんだ、面倒見がいい人だ。
ありがとうございます、と小さく呟いて慌てて会釈。するとマークス様は私の頭を優しく優しく、壊れ物を扱うように撫でてくださった。
「渡させるものか、……渡すものか」
降ってきたそんな小さな言葉に聞こえないふりをして、私はマークス様が手に取ったペンを受け取った。
底冷えしたようなその瞳に映る感情は、私がリョウマ様に向ける感情にとても似ている。
破かれた紙。
(例えファーストネームの字が綺麗になったとしても解放するつもりはない)(彼女は私の元で生き死に絶えればいい)
Title...反転コンタクト
2015.07.24 執筆