蜘蛛の巣の迷宮

「あ、蜘蛛」


 野営地の見回り中。
 なまえがしゃがみ込んで見つけたのは小さな蜘蛛。
 別に周りに害は与えないし、俺もなまえも蜘蛛くらいどうってことない。

 ただこの軍には虫嫌い──蜘蛛は虫じゃないとか聞こえない──の女性(なまえは別として)が多い。
 ……後々騒がれても面倒だし、どうしたものか。
 まぁ特例として蜘蛛が可愛いと言う女性や蜘蛛を呪術に使う呪術師や研究に使う堅物や蜘蛛くらいなら食べてしまう竜がいるわけだが。
 ……この軍はどうしてこうも、変わり者が多いんだろうな。


「クロム、蜘蛛どうする? 健気に生きてらっしゃるけど」
「殺すのも忍びないしな」


 ほっといたらそれはそれでリズが騒ぐ気もするが……まあそのときはその時だし、セルジュにでも任せたらなんとかはなるだろう。蜘蛛を躊躇わずに触るなまえを見て、女にも色々いるんだと染々思った。
 まあ男にも色々はいるんだけどな、恥ずかしがりやなナンパ魔とかただの脳筋とか甘盗賊とか影の薄い重歩兵とか。
 ……やっぱりこの軍は変人ばかりだ。


「蜘蛛ってスゴいよねー。獲物を逃がさずさぁ」


 確かに蜘蛛が作る巣は……なんというか、不思議だ。規則正しく編み込まれた模様、それはただのアートじゃなくて獲物を捕らえるための。
 しかしまあ、そう言った点では。


「なまえは蜘蛛ににてるな」
「えー?」


 そうかなぁ。
 なんて呟きながら蜘蛛をつつく。……自覚がないとは思わなかった。


「あーでもそうかもねえ。一回ロックオンしたターゲットは死ぬまで追い詰めるし」
「……いや、そうではなくて」
「んん?」


 なんでコイツは、こうも自覚がないんだろうか。まぁあってもらっても困るがな。

 あどけなさが残る表情を見てると、本当になまえを戦場にだしていいのか分からなくなる。
 とはいえ、普段戦場に出ている彼女を知っている以上、そんな疑問は直ぐに消える訳だが。なにせ、笑いながら戦うタイプなわけだし。

 本当、無自覚な殺人鬼として考えてしまえば怖いものだ。


「あ、クロムーもうそろそろお夕飯だよー」
「……分かった」


 無自覚な男誑しとして考えても恐ろしいんだが、本人は気づかない。
 なまえが気づくまでに、その笑顔に捕らわれる男は果たして何人になるんだろうか。



蜘蛛の巣の迷宮
(あどけない笑顔は男を捕らえるための蜘蛛の巣)(ただし本人も気づいてない)




Title...反転コンタクト
2018.12.22 サルベージ
Dear, My Doll.