Dread-color-full Dream

※5年以上前の小説をほぼ修正無しで載せてるため文章力はお察し






 私という人間は殺しが苦手だとつくづく思うのである。
 屍兵を殺すだけで吐き気を催し、人を殺した時は悪夢を見る。
 勿論好きで殺しをやっているわけではない。それでも、殺さなくてはならないのだ。
 ほら、今日もまた、母の悲鳴が、父の断末魔が、私が切り伏せた兵士たちの恨みの声が、

 血塗られた光景が。



「ひっ……!!」


 掛けられた布団を跳ね飛ばして、起き上がる。
 頬を冷や汗が伝って、手が震えて。自分自身を抱きかかえて深呼吸。
 今の光景が夢だと理解できても、身体の震えは止まらない。

 見る光景は、いつも違う。でも今回のものは、覚えがあった。
 私が始めて、人を、殺した時の。父が目の前で殺された時の。……あの日の、夢だ。
 呼吸が気持ち悪い。何度か吸って、吐いて。そうしているからか、気配に気づくことが出来ずにいた。天幕が開いて、外の仄暗いあかりが中を照らす。


「おいなまえ、いるかァ?」
「……ぎゃんれる」


 聞こえてきた声に肩を震わせる。はっとそちらを見れば、忌々しい顔が立っていた。
 暗愚王ギャンレル。今でこそ仲間という立場ではあるが、それでも彼は。

 ――私が人を殺すようになった、原因なのだ。

 私の声に反応して、ギャンレルが顔を覗かせる。
 こんな姿を見られたくなくて、顔を伏せた。が、意味なんて無いことは分かってる。
 鼻で笑ったギャンレルの声を頭上に聞いて、私は視線を皿に落とした。


「……なにか」
「ッハ! いつまで経っても出てこねえから心配して来てやったんだぜェ?」
「……ルフレに、言われてきたの?」
「あーらら、信用ねェなァ。残念ながら違うぜ? 俺が俺自身の意思で呼びに来たんだよォ」


 ……わけがわからない。

 私はどうも、この男が苦手だ。降ってくる声に耳を塞ぎたくなるくらいには。
 別に、嫌いとかそういうわけじゃない。いや、嫌いだけれど、それは、なんというか、敵として対峙した時の彼の話。
 今の彼は、改心した。……はず。少なくとも、私とルフレにはそういう態度を取っている。
 彼は彼なりに大陸を守ろうとしたのだ。その方法は正しいとは言えないものだったけれど。


「で、なんだよそのザマは」
「……あなたの、」


 あなたのせいだ。
 思わず出た言葉の先を飲み込む。
 これは言っちゃいけないことだ、って何度自分に言い聞かせてもやはり言ってしまいそうになる。
 それに止めても、流石にギャンレルも気づいているだろう。ほら、眉間にシワが寄った。


「ったくよォ……なまえ、てめぇ殺しが無理なら戦争なんて参加すんじゃねェよ」
「……そうね、仇は今や敵になってしまったんだもの」
「ケッ、言うじゃねェか」
「けど、戦わないと、私みたいに苦しむ人が増えるから」


 答えるとぽかんと口を開けるギャンレル。
 だってそうでしょう。私が苦しめば、苦しまない人だって沢山いるはず。私のせいで死んだ人だって、沢山いるけれど。


「だから何れだけ血濡れた夢を見ても、私は戦う……そうするしかない。
 これでも、私はあなたに感謝してるの。こういう生き方を示してくれたギャンレル、あなたに」
「……ふはっ、なまえがイヤミ言うとはなァ。流石俺に刃を向けた女だ」
「まぁトドメはクロムだったけれど」
「死んでねェよ」


 くすくす笑って、ギャンレルが私に手を伸ばした。
 何か、と顔を上げると儚げな顔をしている彼の顔。
 暗愚王、なんて呼ばれていた頃の彼はもっと覇気に満ちていたけれど、今の彼は何処か丸くなった、ような。物理的ではなくて。


「……まぁ、悪かったな」
「あなたが謝るなんて明日は雨なの?」
「てめ……ッ」
「冗談よ」
「クソが……。これでも反省してんだぜェ? 詫びにお前が悪夢を見なくなるまでそばにいてやろうって思ってんだからよォ」


 ギャンレルの手を取って立ち上がる。
 ……私も相当、クロムに絆されたのだろうか。彼にここまで心を許す、だなんて。

 手を添えられたまま、天幕から出る。
 見上げた先には夢のような血色は無く、ただ青い空が広がっていた。
 ……。


「……結婚するってことかしら。私、悪夢を克服できる気がしないわよ? まあ、そんなの私からおことわ──」
「ッハ、上等だ。克服してもつきまとってやるからなァ」


 脳裏に過った血濡れた夢で嗤っていた彼は、目の前で穏やかに笑っている。


Dread-color-full Dream
(血にまみれた悪夢は)(愚かな私を終わりへ導くの)




2014.03.04 執筆
2019.09.27 サルベージ
Title…反転コンタクト
Dear, My Doll.