硝子泪

※未完成




 人間がこんなに綺麗に泣くものかよ。

 それが一人で静かに涙を流すなまえを見た時の、初めの感想だった。一拍遅れて「学級の仲間が泣いている」という理解がようやく追いついた程度には、その見目に心を奪われていたのかもしれない。
 そう気づいた後の行動は自分でも驚くくらい早かった。今の自分の姿を確認し、とりあえず、と制服の上着を脱いだ。人目から彼女を隠すのには多分これで十分だろう。
 なまえに歩み寄り、他人から見えないように制服を被せた。覗き込むように身体をかがめてなまえと目線を合わせる。突然のことに驚いていたらしいなまえは目を丸くしていた。


「こんにちは、お嬢さん。こんなところで泣いてちゃ風邪引きますよ」
「……シルヴァンか、びっくりした」


 俺の姿を認めたなまえは、ぱっと表情を変えた。静かに一人で涙を流していた時の面影はなく、いつもの明るいなまえに戻っている。
 ……あれは見間違いだったのかと思うほどだ。けど、そうじゃないのは目元が赤いことを見れば一目瞭然ってやつで。
 隠せていないことになまえも気がついているのだろう。少しだけ目が泳いでいるのを、俺は見逃さなかった。


「……それで? どうして泣いてたんだ。まさか自分が泣いてたことに気づいてなかった、なんてことは無いだろ?」
「それは……」
「あ、いや……言いたくないことなら無理矢理には聞かないけどさ?」


 人間誰しも、触れられたくない部分はあるってもので、それがなまえにとっては泣いている理由かもしれない。まあ、無理矢理には聞かなくても予測は立てるんだが。
 誰かにかまって欲しくて泣いていた、という風でもない。それならもっと人の多いところで泣いているだろう。誰かになにかされた、というのが一番無理筋ではないとは思うけども。
 無言のままいるのもなんだかな、と茶化すように口を開いた。


「ああわかった、失恋だ。いやー、わかるぜわかるぜ、俺もフラれたときは泣きたい気持ちに……」
「うん、そう」
「やっぱちが……えっ、マジ?」


 冗談半分で言ったの、と冷たい目で見られる。いやだって、まさか当たるとは思ってなかったんだよ。
 なまえのそういう話は一度も聞いたことがなかった。彼女はどちらかというとイングリットのように騎士然としている、色恋沙汰に興味のない子かと思っていたし、実際ほかの奴等もそう思っていたのだろう。そういう噂は、一度も。

 失恋、失恋。俺にとっては身近な言葉。それがどこまで本気のものか、と問われると答えづらいが、まぁそういう分類をしていいものは幾度となく体験してきた。
 けれど、なまえは? もしかしたら俺が知らないだけでそういうのもあるのかもしれないが、この反応からしてそうではなくて縁遠いものなのだろう。





未完
Title...ユリ柩
2020.02.20
Dear, My Doll.