(前回のあらすじ。変態に告白されて惚れたら負けというゲームを持ち込まれました。勝てる気しかしないです)


「…ところで、マイクがここに置いてあるって事は歌い手さん?」

「いや、それは友人と電話…Skarf(スカーフ)で話すとき用です。そうだ、電話!」

私はSkarfを立ち上げる。が、何故か通話をかけても友人は応答しない。チャットも何故か届かない。
インターネットは繋がっており、動画の再生はできる。しかしこちらからの発信は出来ないようだ。匿名掲示板にテスト書き込みをしても記事やコメントが投稿されないのを見れば、外に連絡出来る手段は無さそうである。

「歌い手さんなら曲作ったのにぃ。ちょうどパソコンに音楽制作のソフトが入ってるし」

「入れたつもりは…」

いや、あるわ。昔私はすくみずさんの曲を聞いて曲を作ってみたい。と入れたものの作れなくて諦めたんだわ。大分開いてないからすっかり忘れてたけど。

「なぁんだ。そんな事なら教えてあげるよ。お代はスク水で」

「断るっ!バカ!」

赤面して罵る私に満悦の微笑みを向けるすくみずさん。

「我々の業界ではご褒美です」

と言ってとても嬉しそう。才能とイケメンの無駄遣い。あぁ神様、この変態を黙らせて。早く。

と、言いつつ流石にこんな会話をずっとしていたらお昼時になったわけで。私はふと気づいてしまった。やばい。外に出られない=食料調達が出来ない。と。

恐らく当分は家にある在庫でなんとかなるとは思う。家族が出かけたのは海外だから、私が困らない為に食料は置いてくれてるはずだ。ただ、二人分となると消費スペースも2倍になるし、何より私はこの変態のご飯を作らなければならないのか疑問が生じる。どうしよう。

ところがその疑問は直ぐに解消された。
「あー、お腹空いたー。肉が食べたい!」

そんなものあるか!腐るものを入れとくような母親ではないのを知ってる私は即座に突っ込んだ。が、それは直ぐに否定された。何故か入っているのである。

「おー。牛肉!こいつは凄い!」

見ると後ろからすくみずさんがはしゃぎながら見ている。見間違えかと思い一度冷蔵庫を閉め、入ってませんように。もっとまともな食材(野菜とか、果物とか)が入ってますように。と祈ると次に出てきたのは人参、ジャガイモなどの野菜。…もう何でもありか!

「ちょっと待て何故に」

そっと後ろに下がりまたもや頭を抱える私の側で楽しげに冷蔵庫を開けるすくみずさん。

「おー。これは…スク水型ゼリー!」

とか言いながら。どうやら望んだ物が手に入る冷蔵庫らしい。やったね!これで生きていけるよ!

…じゃないわ。

今更なんだけども、私はある結論に至った。
これは夢だ。

考えずとも、不審者がいて異世界チックな密室に閉じ込められた!とかもう夢としか思えない。覚めてほしいけど覚める気配が一向にないのが困る。リアルな日常に何でも出てくる冷蔵庫とか普通にあるわけがないのだ。

よし、寝よう。

私はふらつく身体を抑えつつ、
どこに行くのぉー?と言う変態の声をガン無視して自室へ戻った。