一話
「あう…あ、だう!」
腕に抱かれた産まれて間もない赤ン坊へと手を伸ばす。
私の名は星宮薫。
そして私の腕にいる子こそが愛娘の星宮笑歌(エミカ)
私たちは静かに東京から遠く離れた土地に住んでいる。
静かに、ただただ静かに暮らし、“誰にも見つからない”ようにするのが私の目的であり、祈りであるから。
「だ…う………スー」
「ごめんね、笑歌。
パパに会わせられなくて…」
ゆっくりと眠りにつく我が子を慈しむように声を掛けると、掴まれていた指がギュと握られた
大丈夫だよ。と言葉も話せない筈なのにそう言われた様な気がした。
「スースー」
「笑歌…」
掴んでいる指をただただギュと握り、安心したように寝息を立てる
笑歌が産まれたのは、今から丁度3ヶ月。
その時から小さな土地に居たので、近所方や町医者に手伝って貰いながら産んだのは今も記憶に新しい。
パートナーが居ない出産に周りの人も気を使いずっと居て、産んでから体調が優れてない私の変わりに笑歌を見てくれてたことも何度もある。
優しい人達ばかりで本当に涙が出るほどである。
……いや、優しい人は今までにも沢山いた。
少し長くなる笑歌が産まれる前の物語…
next.