08
そのクロス元帥とやらから赤ずきんの本が送られてきて、それを調べに来た探索部隊がフルトヴァンゲン近辺に近づけないから、神田が来たと、」
「そうだ。で、お前心当たりねぇのか?」
「名前で呼んでくれないと返事しない」
「…」
「…」
「…チッ、おい木芽、」
お前呼ばわりにカチンと来たので沈黙を貫けば、きちんと名前で呼んでくれた。これが噂のデレです。
神田の話によると、クロス元帥から本が来たのは3ヶ月前で、神田が任務を伝えられたのが1ヶ月前。
ばっちり魔女さんと特訓し出した日と被っている。つまり、近寄れなくしたのは魔女さんで解除出来るのは私だと言うことだ。
「心当たりは有るよ。で、今は探索部隊と連絡とれるの?」
「あぁ。連絡はとれるが、探索部隊だけ近付く事が出来ねぇ」
「うーん…とりあえずこれ持って」
言葉と共に手に持っていた焼きたてパンと紅茶ジャムを神田の方に押しつける。
魔女さんがエクソシストを派遣した様な物だから、あの手紙に書いていた曲が解除コードを担っているはずだ。当たりをつけて、ケースからレーレ・ヴァッヘを取り出し、ある一節を奏でる。
「何の曲だ?」
「白鳥の湖。…たぶん近づけるようになった筈だから聞いてみて?」
「あぁ、分かった」
少し私から距離を置いて、神田は通信用ゴーレムで連絡をとる。予想通りに解除出来たようで、胸を撫で下ろす。
「木芽、適合者なら教団に来て貰う」
「うん、いいよ」
軽く返事をすれば、予想外の返答だったらしく目を丸くされる。君の呆けた顔はしっかりと心に記憶しましたよ。ごちそうさまです。
だんだんと近付く村の明かりに、悲しさが込み上げてくる。…ここには丁度一年お世話になったのか。ふ、と村の入り口に目を凝らせば、遅くなった私を心配してかクルトが待っていた。
「奏、おかえり。何もなかった?」
「うん大丈夫だよ、クルトただいま」
「ねぇ、そいつ誰?」
「何だこの餓鬼」
クルトに神田の事を説明しようとすれば、青筋を立てながら神田が発言したことで空気が氷点下まで下がった。空気が重たいぞ。
「えーっと…クルト、少しマルクさんのとこに行かなきゃならないからエマさんに言っててくれる?」
「…うん、早く帰ってきてね」
「分かった」
凍りついた空気を無視してクルトに伝言を頼む。「べ、別にご飯冷めると母さんが怖いだけだからな」なんて言いながら走り去っていくクルトにときめいたのは言うまでもない。
「神田、町長さんに説明するから着いてきてね」
「何で俺が、」
「じゃあ神田は、クルトと一緒に家に行ける?」
たぶん神田のプライド的に無理な方をもう一つの選択肢として提示すれば、長い葛藤があった後、町長さんのところまで着いてきてくれることになった。
楽園イグザイル
(付いていくだけだからなっ)
(ありがとー(ツンデレ?))