01
どのくらいボーッとしていただろうか。辺りを見つめていても、もう一度目を瞑っても、周りの景色は変わらず、私は森の中に佇んでいた。
「ほんと、どういうことー…」
小さく呟いた言葉は周りの草木に吸収されて消える。近くにあった倒木に腰を落としてボーッとしてみても、一向に事態は変わらない。とにかく歩くかしかない、そう思った矢先に左手側で草がガサガサと揺れた音がした。
「っ!」
慌てて立ち上がりその方向を睨む。依然、草の揺れる音は絶えず聞こえ、なんならこちらに向かってきている気がする。
熊だったらどうしよう。死んだフリって有効だっけ、逃げたほうが良かったんだっけ。纏まらない考えが頭の中を巡る。あっ、でも熊は足が早いんだった、もう無理だな。段々と近くなっていく音に思考は緩やかに壊れていき、何故か音の方向を黙って見つめることしかできなかった。
足も動かず、しかし目だけはしっかりと音の方向を見つめていれば、茂みの奥から女性が現れる。
「…」
「びっくり、した…」
熊ではなく人だった事の安堵で気が抜けた私は、その場にへたりこんでしまう。女性は黒いマントを被っていて顔は分からないが、マントから出た髪の毛は吃驚するぐらい綺麗な金色をしていた。
外国人、かな。へたり込んでしまった私のそばまで歩いてきて、女性は私の額に手を置く。マントの中に見えた瞳はきれいな緑色をしていて、頭の片隅できれいだな、なんて場違いなことを考えていた。
「え?何?」
女性は私の額に手を置きながら、頭上でぶつぶつと外国語の様な言葉をつぶやく。じっ、と見ていれば困ったような顔をした女性とはじめてしっかりと目が合った。
唐突に、女性は私の手を持って右手で森の奥を指差す。多分、付いて来いと言っているようなので、慌てて一歩を踏み出そうとすると、何故かそこには押し入れから見つけた誰かの楽器が足元にあることに気がついた。
これがどうしてここにあるかよりも、何故だか持っていかないといけない気がして手に取って抱える。
数歩先で見ていた女性が笑った様な不思議な気配がしたが、とりあえずは彼女について行くことにした。
「…」
「…」
お互いに会話することもなく女性に付いてしばらく足を進めれば、森を抜けた様で道の先に小さな町が見えた。女性は町を指差した後、私の背中を押す。よろめきそうになるのを何とか持ちこたえ、女性に文句を言おうと振り返ればそこには既に女性の姿はなかった。
「消えた…とりあえず、町に行けばいいんだよね?」
何もわからないままではあるが、ともかく町への道を歩くことにした。
近づいていくにつれ、景色が今までと全然違うことに気づいた。どことなく外国のようなそんな雰囲気がする。
しばらく歩くと、町の入り口付近で遊んでいたであろう男の子が気配に気付いてこちらを見上げる。癖のある赤毛に青色の瞳をした男の子は、私の姿を見るなり目を丸くしたまま興奮したように喋りだした。
しかし、男の子の喋っていることが分からなくて首を傾げてしまう。やっぱりここは外国なのかな。そんな私を見て何を思ったのか、男の子は私の手を引っ張ると、町の中へ歩き出した。
あれよこれよという間に、町の中で一番立派な一軒の家に連れて行かれる。
奥にはしわくちゃのお爺さんが居て、男の子と何かしら話しをした後、お爺さんがこちらを向いた。やはり彼らが何を喋っているのかわからないので首を傾げると、お爺さんは手を横にして何かの動作をする。
「もしかして、これの事?」
その格好が、何かを弾く動作に見えたので持って来た楽器を差し出せば、お爺さんは慣れた手つきで楽器を開ける。そこに納められたきれいな琥珀色の楽器を見て、びっくりしたお爺さんが慌てて家の外に出て何事か叫ぶのを、まるで観客のように見ることしかできなかった。
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(英語じゃないんだよなー)