02

衣替えをしていたはずの私が居たのは、ドイツ南西部にあるシュヴァルツヴァルト。現地で黒い森とも呼ばれるそこは、モミの木が鬱蒼と生い茂り、どこか暗い雰囲気を漂わせる森だ。

あの日、私を連れ帰った男の子はクルトと言う名前で、時々腹が立つほど憎らしいがまだまだ可愛い盛りな13才である。そんなクルトの強い希望で、私は彼の家に住んで生活する事になった。
当然の事ながらドイツ語なんて知らないし話せない私は、声は出るので、クルトにドイツ語を教えて貰っている。半年経って、漸く会話が出来るレベルにまで成長した。火事場の馬鹿力って凄い。


「奏、聞いてる?」
「え!?あぁ、ごめんクルト」


その他に気づいたことと言えば、どうやら私は若返ってしまったようである。嘘だと思いたかったが、鏡を見たときになんとなく顔が幼くなっていたし、肌のハリが良かった。あと、胸が小さくなっている気がする。


「だから、シュヴァルツヴァルトには近寄ったらダメだよ」
「えっと、何で?」
「…聞いてなかったの?」


書いていたペンを止めて、クルトに問えば、鬼の形相で睨まれた。あ、もしかしてさっきの聞いてなかった話で言ってたんですか。ごめんなさい。


「シュヴァルツヴァルトの森には魔女が住んでるから、近寄っちゃダメだって言ったの」
「はーい。あれ?でも私そこから来たよね?」
「え?あぁ、そうだった…でもダメだよ」
「うん、わかった」




・・・・・・・・・



そんな話をして数時間が経つ。
クルトは畑を手伝いに行って暇なので、シュヴァルツヴァルトの森の方に行くことにした。人は冒険することが大事です。


「何か出そうなくらい鬱蒼としてるや…」


目の前には魔女が出ると噂のシュヴァルツヴァルト。町の人に特に見られる事もなくここまで来れたからか、少し身体が震えるのが分かった。けれど、ここまで来て何もせずに帰るのも嫌なので、森に足を踏み入れる。
とにかくこの場所に来た理由を知りたいんだ。


「最初に出会ったあの女の人、見つけないとなー」


森の入り口付近にあった木の枝で、そこら辺の幹に目印を付けながら森の奥に入っていく。クルトの話からするに、森で出会った女性が魔女な気がしてならない。そして、彼女は何かを知ってる気がする。


「魔女さーん、出てきて下さーい」


ざくざく、と草を踏み鳴らす音に混じって、遠くから小鳥の鳴き声が聞こえいた。声を上げて歩けばあちらが気づくかも知れない、なんて淡い期待を持つが果たして出てきてくれるだろうか。


「魔女さーん、」
「こんにちは奏」
「うわっ!びっくりした」


真後ろから声をかけられてビックリして振り向けば、いつかと同じマントに身を包んだ女性が後ろに立っていた。というか、何で私の名前を知ってるのだろう。


「呼んでたみたいだから出てきたの」
「あ、はい。聞きたいことが有って」
「そろそろ来るだろうと思った、着いてきて」


鈴が鳴るようにコロコロと笑った彼女は何もかもお見通しの様な目をして、森の中を歩いていく。先を進んでしまった彼女に、慌てて一歩を踏み出せば、周りがぐにゃりと揺れて、さっきまでそこにはなかったはずの家が目の前に現れていた。



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(もう何にも驚かないぞ)