05
それからも時間は留まることを知らず、風のように過ぎていった。そして、ようやくイノセンスを安定して使えるようになったある日、何時もの様に森に行けば魔女さんの姿は何処にもなかった。
森を暫く歩けば、目の前に荒れ果てた魔女さんの家を見つける。取っ手を回しながらゆっくりと家に入る。
「魔女さーん、いないんですかー」
家の中も外見同様に荒れ果てていて、昨日もここで魔女さんとお茶を飲んだなんて信じられない。テーブルに目をやれば、荒れ果てた室内には似つかわしくないほどきれいな封筒が置いてあった。
「魔女さんからだ…」
封蝋が押された封筒を開けば中からは便箋が一枚。これまでの思い出話と目立ち過ぎたから姿を眩ませる事、これからの事が綴られていた。
「結局、名前知らなかったなー…」
名前も知らない魔女さんと過ごしたのは、長いようで短い3ヶ月間。彼女ほど私の師と呼ぶのに相応しい人はいない、と胸を張って言える。胸に残こるのは、伝えきれない程の感謝と、大きな後悔だった。
町へ帰り、魔女さんが居なくなったことを告げれば、大半の人はほっとした様な顔をしていた。…魔女さん、町に何してた。
――同日、黒の教団本部
「神田くん、赤ずきんの話って知ってる?」
「は?」
リーバーに呼ばれてこの部屋に来た神田は、開口一番に意味不明な事を言った巻き毛の室長を睨む。神田の視線に短く悲鳴を上げた室長のコムイは、へらへら笑いながら謝り、言葉を続けた。
「あぁもう、神田くんってば怖いなぁー…実はね、クロス元帥から手紙と赤ずきんの本が送られてきてね」
「…で?」
「ざっくり言うと、赤ずきんの話はドイツ南西部で語り継がれてた話が、貴族向けに童話になったみたいなんだ。で、探索部隊が調べに行ったんだけど、フルトヴァンゲン近辺に近づけない事が分かった」
「イノセンスがあんのか?」
「うーん。よく分からない。ただ、フルトヴァンゲン近辺、といっても原因の場所が詳しく分からないからしらみ潰しになると思う」
「チッ…分かった」
盛大に舌打ちをしながらも、コムイから任務を言い渡され神田は短く頷く。調査書をパラパラと見ればクロス元帥から送られた本の抜粋と、その童話が語られていた大体の地域が記されていた。
「…行ってくる」
「うん、気をつけて」
コムイの見送りにも小さく舌打ちをした神田は、指令室を後にする。向かうはドイツ南西部、シュヴァルツヴァルト内に位置するフルトヴァンゲン付近だ。
動き始めた歯車
(魔女さんいないのかーどうしよ…)
(何で俺が行かなきゃなんないんだよ…チッ)