06
「ありがとうございました」
ギューテンバッハにある一番大きな噴水の前で、演奏が終わった私はお礼を述べる。お礼を言った私に、周りからは拍手と賞賛の声が送られた。
魔女さんが居なくなって1ヶ月が立つこの日は、3日置きに演奏していたから丁度10回目の日でもある。こうやって、誰かの為に曲を奏でて、お礼を言われるのは中毒になるほど楽しい。
「赤ずきんのお姉ちゃん、きらきら星弾いて!」
「はーい」
小さな男の子にせがまれて、レーレ・ヴァッヘを構えて音を奏でる。
名前を隠して演奏しているため、服装で名前を付けられた事に関してはこの際気にしないことにする。じゃないと恥ずかしさでのたうち回りそうだ。
「―以上です」
「お姉ちゃんありがとー」
「いえいえー、…!」
小さな男の子はお礼を言ってケースの中に気持ち程度のお金を入れてくれた。
その時、ふと視線を感じた。気のせいかもしれなけれど、用心に越したことはないので、なるべく早く楽器を片付ける。
「お姉ちゃんまた来てねー」
「赤ずきんちゃん、今度はアヴェ・マリアを頼むぜ」
「はい。ありがとうございました」
声を掛けてくれた人達にもう一度礼を言い帰路に着く。途中で、パン屋さんから焼きたてのパンを貰ったり、お茶屋さんから紅茶ジャムを貰ったりで行きより荷物が重くなってしまう。演奏のお礼だそうだ。頬を緩めながら足を進めるが、さっき感じだ視線はまだ付いてきているようで、気のせいではなかったようだ。
「もう少し、」
敵意が含まれた視線を感じるが、今行動を起こすわけにはいかない。なるべく、人のいない場所を目指して足を進める。
「ここら辺で良いかな」
しばらく歩くと、町外れまでたどり着く。呟きと共に少し道を外れて振り返る。こちらが止まった気配を察してか、木の陰から人が現れた。
「てめぇ、気づいてるんなら逃げるんじゃねぇ」
「…!」
「聞いてんのか」
「…あ、聞いてます」
木の陰から現れたのは、長いコートに身を包んだ長髪の男の子。長い髪は高い位置で結ってあり、切れ長の瞳が好戦的にこちらを見ていた。
魔女さんから聞いて分かってはいたが、現実として認識すると言葉が出なかった。なんてったって私の目の前にいるのは、人気投票で上位にいる、あの神田ユウなのだ。男の子、と思ったのは漫画で見たよりも少し若い気がしたから。
「赤ずきんはお前か?」
「…たぶんそうです」
「話は早え、六幻抜刀」
「え?」
「AKUMAなら俺に切られ、ろっ」
「っ!?」
話もそこそこに、私が赤ずきんかどうかを確認した彼は、イノセンスを発動して切りかかってくる。
魔女さんとの特訓のお陰か、彼の太刀筋を寸でのところで回避しながら貰い物を茂みに放り投げる。
「話、くらい、聞いて、くれませんっ」
「ちょこまか逃げんなっ!」
全くもって会話する気がない彼の攻撃の合間を縫って、ケースから素早くレーレ・ヴァッヘを取り出し発動させる。
「イノセンス、発動っ」
「何っ!?」
私がイノセンスを持っていたことに驚いて攻撃を止めた彼には悪いが、次いで曲を奏でる。
「魔女ノ歌、風よ鎖になれ」
曲を弾き始めた瞬間から周りに風が起こる。いきなりの事に未だ対処出来ない彼はその場に立ち尽くしたままだ。
曲も終盤に差し掛かった所で、風が意思を持ったようにうねり、彼の四肢に絡み付く事で動きを止めた。
世界の崩壊が始まる
(てめぇ、何しやがった)
(そのまま頭冷やして下さい)
(適合者なのか…?)
(…(気づくの遅いな))