02
先日の琥春さんの一声により、私の夏休みは慌ただしく過ぎていった。
通っていた学校はチャリ通圏内だったが、星月学園は寮生活になるらしく荷物を纏めたり、必要な教科書を買いに行ったりと大忙しだ。
琥春さんの「私の学校」発言には驚いたが、星月のおじいちゃんに事情を説明しに行った時も驚いた。星月家は物凄いお金持ちで何でも、「記憶がないのなら違う学校に編入してもいいじゃない。それに私の学校なら琥太郎もいるし安心よ」と言うことだそう。
琥太郎さんは誰かと言うと、琥春さんの弟で星月学園で保険医をしているそうだ。やっぱり分からないのだが、事情は説明してくれているとのこと。
そしてやはりと言うかなんと言うか。
琥春さんがすっかり忘れていた、学校説明会(中学生向け)に参加することになって今は移動中。
移動も運転手付きの車とは思いませんでした。
・・・・・・・・・
「さぁ珠!そろそろ着くわよー」
琥春さんの声に、眠気と闘っていた目を外に向ければ、山の中にポツンと建った広い校舎が見えていた。校門なんか物凄いオシャレだ。
近くの中学校は見習って欲しい。…いや、やっぱり止めた方がいいかもしれない。
教職員用の駐車場に車を止めてもらい、琥太郎さんがいるという保健室まで歩く事になった。
「珠、来た道覚えていてね」
「はーい」
「私方向音痴だから当てにしないでね」
予想外な琥春さんの言葉に今まで歩いた道を必死で思い出す。
…うん。なんとかいけそう、かな。
差し掛かった別れ道で琥春さんが止まってきょろきょろする。
「確かー…この辺に…」
「琥春さん、琥春さん」
「なぁに珠?」
「あっちの廊下の所に保健室て書いてますよ」
「あら、ほんとね。ありがとう、珠」
琥春さんが間違えて進みそうになっていたのを止めて、廊下の先を指差せば、琥春さんは元気に目指して行く。
そして、保健室の前にたどり着いた琥春さんは、遠慮なく扉を開いた。
「琥太郎ーっ!久しぶりね!」
「…姉さん、ノックぐらいしてくれ」
「細かい事は気にしちゃダメよ」
ワンテンポ遅れて男の人の声が聞こえた。扉を開け放ったまま入るのが琥春さんらしいと思いながら、後に続いて保健室に入る。
琥春さんの少し後ろで立ち止まって視線を琥春さんの向こう、つまり琥太郎さんの方に向ければ、そっくりな美人さんがいらっしゃいました。
「珠も、久しぶり」
「お、お久しぶり、です」
ふわり、と微笑みながら声をかけられるがこんな美人さんには滅多にお目にかからないためか、言葉が上手く出ない。
「そうそう琥太郎、電話でも伝えたけれど珠は何も覚えてないの」
「あぁ、みたいだな。珠の顔に書いてある」
「すいません、」
「謝ることないだろ?しかし、頭打って記憶なくすなんて珠らしいな」
琥太郎さんと目が合う。けれど、良くしてもらっているのに何も知らないことがすごく申し訳なく思い謝れば、あまり気にした風でもなく茶化された。
琥春さんと姉弟なだけあって、とてもよく似ていると思った。
「説明会まで2時間あるけど何して過ごすんだ?」
「えーっと、」
ちらりと琥春さんの方へ目を向ければ、素敵な笑顔を浮かべていた。
「そんなもの琥太郎が珠の面倒をみるのよ!」
「姉さん…俺にも仕事が、」
「あなたいつもサボってるじゃない」
「…」
「私は理事長の仕事があるから終わった頃に迎えにくるわ。じゃーね珠」
「あ、琥春さんいってらっしゃい」
言いたいことだけを一方的に言って琥春さんは仕事の方に向かってしまった。
小窓から花束
(律義に送り出さなくていいんだぞ)
(そうですか?)
(姉さん調子に乗るから)