U(完)

土星界。白き天使達の住まう都。ここに、この物語のヒロインがいる。
美しき白い翼を持ち、同期の天使達の誰よりも速く翔ぶことのできる天使 ルキ。

「…どうして、“天使”になんて生まれてきたんだろう」

ルキは地球で死した魂を土星界に送り届ける事に悩んでいた。
誰もが皆、特に人間という名の種族は“死んだ”事を簡単には受け入れない。
地球に未練を残し離れたくないともがき、周りの者を傷付ける…。

「天使って…残酷だよ」

彼女達はそういった魂も送り届けなければならない。骨の折れる使命である。

「ルキー!アースに行こう!」

同期の友達であるミクルが、ルキを呼びながら飛んできた。

「…うん」

ルキは泣きそうな顔をして返事を返した。

「今日も笑顔で魂を送り届ける!」

ルキはミクルが、この使命に誇りを持っている事を分かっているつもりだ。
だから、自分が行きたくなくとも一緒に地球へ行く。それが天使の使命だから…。

「ルキ、笑顔を忘れてる!」

ミクルに注意をされた。天使はいつも、笑顔で魂を送り届ける事が決まりだ。
決して“天使”は泣いてはならない…それは最大の禁忌<タブー>。それを犯せば堕天使の烙印をおされて土星界を追放される。

「わかってる…笑うよ!」

ルキは笑顔を作った。
泣きたい気持ちも、不安も…何もかも隠し込んだとびっきりの笑顔を…もうずっと、そうしてきたのだから何も変わらない。
気付かなければいい…心が天使という名の重りで崩れてゆく音など、ルキには聞こえない。

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