泣いて叫んだ君への想い (太陽村の隠し事)

ルキリア...

この星で何よりも一番

おれの大切なひと


 ̄ ̄ ̄ーーー_____

太陽村を上空から見下ろす1体の魔族。
村に住む彼ら人間にしてみれば、これからあの魔族に喰われてしまうのではないかと気が気ではない。
魔族に恐怖し、逃げ惑う小さく脆い人間達...ただこの村の長だけは、静かに上空にいる魔族を見上げていた。

「おじいさま?」

長の服を小さな手で必死に掴む幼女が1人。
太陽の光に輝く綺麗な金色の髪、不安そうにライトブルーの瞳が揺れている。

「大丈夫じゃ、リオン。あの者は人間を襲わぬ、ルキリアに嫌われる事はできぬ性分じゃからの」

長は何処か寂しそうで、あの魔族を見る目は自分に向ける優しさと同じだと感じたリオン。
上空にいる魔族は突然唸ると、大きな鳴き声をあげた。それに驚き、村の人間は我先にと逃げ回っている。
リオンが長の顔を見上げれば、彼のシワの深い目尻には涙が伝っていた。

「あの魔族の名はクーファッシュ・イブリース。彼はな、リオン...」

ーーールキリアを探して泣いておるのだ

長の言葉は村の人間が逃げ惑う騒音、そして...村の一部の若者が魔族を倒そうと、遠い異国から買い付けた大きな大砲(対魔族用)の発射の音でかき消された。

「やめるのじゃ!」

長の声は騒音の中、誰にも届かない。
大砲から放たれた弾は見事に上空の魔族に命中した。クーファッシュは気付かずに逃げる事もできず、ズルズルと地上へと高度を下げた。
歓声にわく村人達の声...。
あの大砲は特殊な術の掛けられた対魔族用の武器だ。人間が生きるためにすべての魔族を滅ぼすための、唯一の武器である。

「嗚呼、何て事を...うっ!!」

一部の若者達のやった事に、そして今までの無理が祟り...口から血を吐いてうずくまった長。
リオンには見せないように努力したが、口をおさえた指の間から赤黒い血が地面に落ちた。

「老いた、エヴィル。どうしてこんな人間なんて庇護するんですか?」

長の近くに突然現れた空色の髪を靡かせた、不思議な雰囲気を持つ青年。彼の着ている服に滲む赤い血...。
村の人間ではない彼。そして、先程まで上空にいたはずの魔族が消えている事に村人達はその青年を魔族ではないかと警戒する。

「人の事を言えた義理か、クーファッシュ...」

長は体の痛みを堪えながら話す。
するとクーファッシュは人間の姿をしたまま上空へと浮き、姿を魔族へと戻して飛んで行った。
それを呆気に取られて見ていた村人達。そして弾かれたように村人達は血を吐いてうずくまっている長に駆け寄った。

「リオン!こっちへ」

「長!?いったい...」

村人の1人がリオンを引き離し、長の傷の具合を確かめようと集まって来た村人達が手を差し伸べる。
だが長はその手を拒み、これから太陽村の者達を頼むと言い残して...愛用の杖でやっと立ち上がると村の皆に微笑み掛けた。

「人間が生きるために魔族を滅ぼすのもありかもしれん。だが太陽村の者は気を付けよ、もう人間の血の方が濃くなっているが...」

ーーーすでに魔族と人間の間に生まれた子じゃ

長はそう言うと村の広場へと進み、別れを惜しむように村を見詰め、皆の顔を見て...自分の姿を魔族へと変えると人間が忌む魔族の領土へと飛んで行った。

[ 31/41 ]
[*prev] [next#]
[戻る]