可愛さ余って
「「あ」」
階段を上ってきた御幸と降りようとしていた苗字の視線が重なる。一緒にいた苗字の友人は、またかと頭を抱えた。しかし、そんなことを口にしてはまた面倒なことになるだろうと、当人たちが顔を逸らすまで待つ覚悟もしていた。
けれど御幸の後ろにたまたまいた倉持がそんな思いを汲むことが出来るはずもなく、彼は思うままに本音を口にしたのだった。
「いや、いつまで見つめ合ってんだよ」
「見つめ合ってねーよ!」
「見つめ合ってないよ!!!」
数秒の間を空けてからそう勢いよく叫んだ2人は、その勢いのままあれよあれよと罵り合いを始めてしまった。
自分のせいだと倉持が気付いたのは、苗字の後ろにいる女子生徒が悟った顔をしていたからだろう。
「でっかいゴミがあるなーって思ってただけだし!そもそも御幸のこと見てるくらいならゴミの方がマシだし!!」
「人間をゴミと見間違えるなんて病院行った方がいいんじゃないか〜?」
「御幸こそその腐った根性細胞からやり直した方がいいんじゃないの?!!」
「赤ん坊とか受精卵ならまだしも、細胞ならやり直すじゃなくて作り直すじゃねーの?」
「うるさいバーカバーカタンスの角に足の小指ぶつけてしねこのクソメガネ!!」
「はっはっはー、やっぱり馬鹿の言う悪口は笑いたくなるほど頭が悪いなー」
いい加減止めねば騒ぎになってしまう、と騒ぐ2人の後ろで目配せをした倉持たちは、同時に苗字と御幸を引っぺがした。
「おい御幸、教室帰んぞ!」
「なまえ!次移動教室でしょ!遅れちゃうから!」
引きずられるようにして去っていく苗字に御幸はニヤリと笑った。面倒になりそうな予感を察してか、倉持も御幸の首根っこを掴む。
「苗字ちゃんは授業も把握出来ないのかな〜」
「御幸が突っかかってくるからでしょしねばいいのに!!」
お互いの姿が見えなくなるまで悪口を言い合っていたかと思うと、苗字と御幸はほぼ同時に、目の前のクラスメイトに盛大にため息をこぼした。
「うわ〜〜んまたバカとかしねとか言っちゃったよどうしよう今度こそ嫌われちゃうよ〜〜〜!!!!!」
「大丈夫だよなまえ落ち着きなって!」
「なんで苗字の顔見るとああも嫌味がベラベラと出てくるんだろうな?逆にすごくね?」
「それはお前が元々性格悪いからだろ」
どう見ても両思いなのをわかっている2人はめんどくさい友人を宥めながら、ため息を吐いてこう思った。「ああもう、さっさと付き合えばいいのに‥」と。