敗北宣言


「お前、彼女と連絡取らなくていいのか?」
「は?」

練習終わり、そう言われて初めて、自分が長らくなまえと連絡を取っていないことに気付いた。練習に夢中だったとはいえ、そろそろ一ヶ月‥か。

「いいんすよー今かけたらアイツ、野球に集中しろって絶対怒るんで」

そうあることないことをおり混ぜて答えながら、俺はいつ、どのようにして電話をかけるかを必死に考えていた。それから、長らく放ったらかしにしていた言い訳も。
けれど、うまい言い訳なんてそう簡単に出てくるわけでもないし、むしろ向こうからかけてくるべきだろ、なんて拗ねた感情さえ頭角を現し始めた。
俺はなまえに「何かあれば連絡しろよ、なくても世間話でいいからさ」とできるだけ空いてるだろう時間を教えてあった。この約一ヶ月間、期待していなかったと言えば嘘になる。

「つれねーの」

もしかしてと携帯を確認してみたけれど、なまえからの連絡は一件だってない。こうなりゃ根くらべだ、なんてバカなことを考えて、そのまま携帯をしまう。彼女から寂しいと連絡が来たら、うんと甘やかしてやろう、そんな風に考えて。



それから早数ヶ月。
なまえからの連絡は、なかった。

よくなまえと会ってるらしい高校ん時のマネージャー達に聞けば、なまえは遠慮しているらしい。なんだそれ。お前そんな、しおらしい女だったの。
携帯を握りしめて項垂れる。

「‥‥今更、なんて電話すりゃいいんだよ‥」

根負けしたのは、俺の方だった。意地張って、根くらべなんて言ってないで、さっさと連絡すればよかったんだ。なまえの声が聴きたい。理由なんてそれだけでよかったのに。俺はそんな単純なことすら気付かない、バカだったってことか。

次の試合が終わったら、必ず連絡しよう。奇しくも彼女と俺との関係と反比例するように絶好調なバッティングを、なまえに見せてから。






チャイムが鳴り、うっかり誰かも確認せずにドアを開けてしまう。しまった、と思った時にはもう遅く、目の前の人物はドアの隙間に脚を割り込ませた。

「‥‥は」
「来ちゃった」
「苗字さん家は隣でーす」
「おいおい閉めようとすんなって!」

数ヶ月ぶりに連絡があった次の日に家来るって何、と思わなくもなかったけど、昨日の電話のこともあったので、仕方なく部屋へあげる。すると一也は早々にごろりお寝転がって、呆れて溜息が出た。何しにきたのかと問いながら近くに座り込むと、頭を腿の上に乗せてくる。

「ちょっと、なんで上乗るの」
「いやー絶景だなーって」
「足痺れたら慰謝料百万ね」
「このホームラン王にそれっぽっちでいいの?」
「じゃあ全財産」
「厳しっ!」

そんな他愛もない会話をしているうちに、一也は気付くと小さく寝息を立て始めた。
疲れてるのに、わざわざ寄ってくれたのかな。そう思うとこの腹が立つほど整った顔立ちをした一也のマヌケ面が、ひどく愛おしく思えた。テレビから聴こえた一也のインタビューの声に口角が上がってしまいそうになるのを抑えながら、待たされた時間と同じくらい長い長い、ため息を吐いた。


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