蕭蕭
主の視線の先にいる人物が毎回同じ人物であることに気付いて、こりゃほの字だろうとふっかけてみれば、主は照れるでもなく怒るでもなく、困ったように笑った。
「私が好きなんて言ったら、きっと困るから…」
「いや、そんなことは…」
ないと言い切れるほど、俺は出来た人間ではなかった。特別奴と仲が悪いとか良いとか、そう言うわけではなかったが、確証のないことに「はいそうです」と言うような、適当な返事はしたくなかったのだ。
「おりゃ!」
当の本人は呑気に雪合戦なんてしてまあ、と野次馬根性で近付いてみれば、顔面に盛大な雪玉を食らう。
「そんなとこに突っ立ってたらあぶねーぞー!」
「……おー、そうだ、なっと!」
やられっぱなしは性に合わんと、顔に雪玉を食らわせてくれた相手に雪玉を投げ返す。見事に相手へと届いた丸い雪玉は、顔面で崩れて地に落ちた。
「薬研もやろうぜ!ちょうど人手が欲しかったんだよ」
「乗りかかった船だ、助太刀するぜ」
白衣を脱ぎ捨て、近くの木の枝に掛ける。眼鏡をそこらに置いておくのは忍びないが、落ちても雪の上だ、踏まれない限りは壊れはしないだろう。
「で、勝ったら何が貰えるんだ?」
「主の誉、だってよ」
「へえ、そりゃいいな」
ぴくり、と獅子王の肩が揺れたのを、俺は見逃さなかった。好いているのか、と言う否定も容易い質問をしてみたが、本人に伝わらなければ隠す気はないらしい。小さく溜息をついたのち、「わかる?」と眉を下げて笑った。
どこかで、みたことがあるような表情だ。
「一歩引いて見てりゃ多少はな。で、大将には言ったのか?」
「…………いや」
「言やあいいだろう、少なくともこっ酷く断るようなお人じゃないぜ、大将はよ」
「言わねーよ」
「なんでだよ?」
「なんでって、そりゃ…」
話し込んでしまい察知するのが遅れたのか、先刻の自分のように、獅子王は顔面に大きな雪玉を受ける。むきになったように投げ返した雪玉は、相手を通り過ぎてそのまま木にぶつかって潰れてしまった。
「俺が好きだなんて言っても、主にゃ迷惑なだけだろーし」
「!」
「ほらほら、早く投げねーと負けちまうぞ!」
なんでもないように笑う獅子王の笑顔は、やはり、どことなくなまえと似ていた。