頑張れ轟くん!


「苗字、センパイ‥!」

苗字なまえ、高校二年生です。

「次の試合勝ったら、つ、つき‥!」
「つき?」

「‥‥つ、月見団子‥食べさせてください‥」
「お月見したいの?ふふ、いいよ」

後輩の轟雷市くんに、好意を持たれています。








「なまえ、また例の後輩くん?」
「うん、今度は月見団子だって」
「また謎なチョイスを‥」

自慢のようにも惚気のようにも聞こえるけれど、事実のようなので許して貰えるとありがたいです。

「まあでも、美味しそうに料理を食べてくれるのはちょっと楽しいよ?」

発端はおそらく、以前空腹で苦しんでいた轟くんに餌付けをしたことがきっかけなのだと思う。
料理部なので、よく作りすぎた料理を友達に持って行ったりしているのですが、その日もちょうど私は余ってしまったコロッケを手に校内をうろついていました。
そこに倒れるように寝ていたのが轟くんだったのです。
お腹が空いたと言うので持っていたコロッケを与えると、そこからはトントン拍子で轟くんに懐かれ、今に至るというわけです。

「なまえ‥その轟くんとやらが教室覗いてるけど‥」
「あ、ほんとだ」




「試合、見に来てくれてありがとうございました‥!」

轟くんに連れられ校舎裏に行くと、轟くんは、体を鋭角にするくらい大袈裟に頭を下げた。

「ううん、こちらこそ誘ってくれてありがとう。轟くんかっこよかったよ」
「??!!?!!」
「よかったらまた誘ってね」
「は、はい‥もちろん‥!!!」

轟くんは汗を飛ばしてなんだか嬉しそうに笑っている。轟くんはいつもまっすぐで一生懸命で、可愛らしい。

「あ、あと‥差し入れ、いつもありがと、ございます‥!」
「いえいえ、私も美味しそうに食べてもらえて作り甲斐があるよ」
「カ、カハハ‥‥!」

轟くんはひとしきり嬉しそうに笑ったかと思うと、急に胸に手を当てて深呼吸をし始めた。今日は一体何を言ってくれるんでしょうか。

「苗字センパイ!!」
「はい!」
「す‥‥!す‥‥‥!!」
「す?」

轟くん、もう少しだよ!頑張って‥!そんな私の気持ちを知ってか知らずか、割って入るように鳴る腹の音。
轟くんは視線をあちこちに泳がせながら汗をダラダラ流したかと思うと、突然鳴り響いた自分のお腹に顔を真っ赤にさせた。

「す‥‥きやきが食べたい、です‥」
「すきやき?じゃあ、次はすきやき弁当にするね」
「‥‥う‥お、お願いします‥」

本当は私の好意を伝えて、轟くんの喜ぶ顔を見たい気持ちもあるのですが、

「つ、次‥‥次こそ‥‥」

轟くんが今日も私に想いを伝えようと一生懸命に頑張っている姿を見ていると、もう少しだけ、轟くんの頑張りを見守っていようと思うのです。


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