Buon Natale!
「おかえりなまえ!」「め、メローネ…その服装なに…」
サンタクロースの格好をして出迎えたオレを見たなまえが、呆気にとられたように立ち尽くしていた。そんな気はしていたが、今日がクリスマスだとは気付いていないらしい。
急かすように彼女の手を引いてリビングまで連れて行った。
「どうだ?オレにしては頑張ったと思わないか?」
ワンルームの小さな部屋には少し大きすぎたかもしれないツリーやサンタのぬいぐるみに、部屋を彩る輪飾りや電飾。視線をゆっくりと動かしながら少しずつ目を輝かせていくなまえに、オレの心も浮かれていった。
「今日って、クリスマス…?」
「そうだぜ。向こうで言うならBuon Natale!って日だな」
「仕事ばっかりで気付いてなかった……」
案の定気付いていなかったらしいが、理由が仕事とはよろしくないな。彼女が楽しいなら止めないが、早く彼女を養えるようにならなくては。可能なら、イタリアに戻って働ければ良いんだが。彼女と共にいるためなら仕方ない。
「メローネ、こういうの興味ないかと思ってたよ」
「一人の時はな。でも今年はなまえがいるだろ?」
前世なのかわからないが、オレには今の人生とは違う、もう一つの記憶がある。思い出したのは今からそう遠くない頃で、はじめは名も姿形も同じなものだから夢かとさえ思った。だがその記憶が死に近づくにつれ、オレはそれが夢ではない現実にあったことだと実感した。舌に痛みさえ感じた。そして何より、後悔の気持ちに胸を痛めた。
ーーだから今年の5月初旬、イタリア旅行に来ていた彼女を見つけた時は、藁にもすがる思いだった。この再会は運命だと、神に今度こそ彼女を幸せにできる権利を与えられたのだと思った。
オレは彼女のことが好きだった。この世の誰よりも彼女の幸せを願っていた。だからこそ、彼女に想いを告げることも好意を見せることも、一度たりともしなかった。
彼女は、なまえはオレをうっすらと憶えていると言う。荒んだ記憶は薄れているが、確かにオレを憶えてくれている。この神が与えたチャンスを逃すわけにはいかなかった。
今度こそ、彼女に穏やかで暖かな幸せを、オレの手で贈るために。
「あ、ご飯まで作ってくれてる!」
机に並ぶ料理に喜ぶなまえに、満たされた気持ちになる。今日のために毎日練習を重ねてもどうにも不格好にしかならなかったのが残念でならないが、味は彼女を満足させられるはずだ。
「おっと、食べるのはまだ待ってくれよ」
「まだあるの?」
キッチンへ向かい冷蔵庫から箱を取り出す。よく子供が持つ人形やテディベアに視線をやっていたことを思い出して買った、サンタとトナカイが並ぶ幼さの残るケーキだ。
「見てくれ!可愛いケーキも買ったんだ!」
「……かわいい」
「だろう?なまえが好きだと思ったんだ」
箱を開けて彼女の方へ傾けると、花が開いたように嬉しそうに頬が赤らんだのが、愛おしくてたまらなかった。
「あの頃はろくに祝いもできなかったからな」
思わずそう漏らすと、なまえは不思議そうな顔でオレを見上げる。
「メローネ覚えてるの?」
「…多少はな。だから今日はなまえと祝えてよかった」
失言だったかと思ったが、なまえはオレの言葉を真っ直ぐに受け止めて、照れ臭そうにそっぽを向いた。
「……サンタの格好じゃなかったらもうちょっとカッコ良かったのに」
照れ隠しの仕方まであの頃と変わらないなまえに、涙が出そうだった。誤魔化すようにタンスから女性用のサンタ衣装を取り出すけれど、彼女はまだ顔が赤いのかそのまま洗面所へ向かって行く。
こんな照れ屋で恥ずかしがり屋の彼女だから、指輪なんて差し出した日にはタコのように真っ赤に茹で上がってしまうんじゃあないだろうか。本当はすぐにでもオレの人生を渡してしまいたいが、まだしばらくは恋人のままでいるとしよう。
もう君の幸せが、失われることはないのだから。