08

 大きな欠伸を一つこぼしてから、乱暴に目をこする。メローネがいたら止められただろうかと思いながら、柔らかい音を立ててページをめくった。

今読んでいる本は、メローネが買ってきてくれたものだ。実在する人物の情報を取り入れないように、創作のものだけを選んでくれているらしい。以前は作者が既に亡くなっているものばかり読んでいたけれど、最近は表紙がなかったり切り取られたりしているのを見るあたり、比較的新しい作品もあるみたいだ。わざわざ中に目を通してから選別されて渡される本は、どれもが子ども心をくすぐるような作品や、子供を正しく育てるにふさわしそうなものばかりで、ベイビィ・フェイスに読ませるには良くなかったりするのかな?なんて考えたりする。

「でも日本の漫画は日本語で読みたいな…」

さすがに日本にいた時と同じくらいイタリアにも住んでいるのだから慣れたものだけれど、やはり漫画は右から左下に読みたい。コマも文字も。
そう考えると、アニメは見やすくていいなあ、次はビデオかDVDでもお願いしてみようかな……

そんなことを考えていると、小さくノック音が聞こえた。

「なまえ、入るぞ」
「プロシュート?どうぞ」

ノックをした時点でメローネでないことは分かっていたけれど、一体何の用だろうか。次の任務、またプロシュートと一緒なのかな?プロシュートとの任務は厳しく言われつつも理にかなっていて、私は嫌じゃないけど。プロシュートは面倒だろうなあ。

「ちょっと話があるんだが、いいか」
「? うん」

やけに神妙な面持ちのプロシュートに、栞を挟むのも忘れて本を閉じた。閉じた本を横に置いてプロシュートもベッドに腰掛けるよう促したけれど、「仮にも女の使ってるベッドに座れるか」と叱られてしまった。

「まあいい…メローネと最近何かあったか」
「何かって…?あ、この前メローネと二人がかりでようやくギアッチョを倒せたこととか…?あっゲームでね!」
「……いつも通りみてーだな」

どういうことかと考えあぐねていると、プロシュートは言いづらそうに、けれど何かを決心したようにこちらに向き直った。


「メローネは、おまえのことが嫌い……いや、苦手なんじゃあねーか?」


ーーー嫌い?誰が何を?


「あいつ、自分からなまえに触れたこと一度もねーだろ」


全部、おまえが望んだからやってるだけだと。続けられた言葉の意味を理解した瞬間、取り繕うような言葉が口から自然と溢れた。

「ま、まさか〜!メローネが私のこと嫌いなんて…あるはず……」
「……」
「そんなわけ……」

否定したいのに、そんなわけないと言いたいのに、メローネが自ら触れた記憶が思い出せない。あの時も、あの時も、あの時もあの時もあの時も、全部私が、メローネにお願いしたから、

「……もしそうなら、私メローネの迷惑?」
「あくまでオレが思っただけだ、疑問に思うならおまえもあいつの様子を見ててくれ」

気に病むなよ、と呟かれた小さな声は、私の耳に届いたはずなのに。プロシュートが扉を閉めて出て行ってからも、そばに置いたままの本を読む気にはなれなかった。

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