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「…………そうか、オレは……」


 神の導きとでもいうかのように、遠い記憶を夢に見た。夢から醒め、何もかも思い出したというのに、心はあの頃と変わらぬままだ。

あの日共に生きると決意したときも。裏の世界で生き始め、チームの一員となってからも。彼女を守ると言う大義名分に溺れて、彼女の唯一であることに自惚れて。
生きる意味を彼女に押し付けることで、自分と向き合わずに、歩みを止めていた自分。

それすらも優しく包み込んでくれていた彼女の優しさに、気付かないフリをしたままで。

目の前にいる幼い少女ーーではなく、成長した彼女、なまえをじっと見つめる。


「なまえは、あの頃から変わらないな……」


成長もせず変化を恐れた自身とは違い、揺るがぬ優しさと、人を愛す心。優しすぎるあまり、自分の身など顧みない。なまえの母親と祖母にそっくりだ。

眠る前に彼女に伸ばした手。その手をもう一度、彼女の頭へと差し向けた。指先が、小さく震えている。
ゆっくりと指先から彼女の感覚を受け入れながら、おそるおそる彼女の頭を撫でた。

「……めろー、ね」
「ずっと、向き合うことから逃げていてすまなかった」

うっすらと開けられた眼が、頭にあるオレの手とオレ自身を交互に見て見開かれる。頭を撫でる指の腹がひどく震えているのを見てか、なまえはまた少し辛そうな顔をした。

「話があるんだ。聴いてくれるか?」
「…、うん……」
「昔の夢を見た。オレが、なまえに出会った時のことを」

頭を撫でていた手を引っ込めて、強く握りしめた。

今でも強く思う。彼女がオレと出会っていなければ。オレが両親から産まれることがなければ、彼女はこんな道に進まなくてよかったのにと。

「オレの母親のせいでなまえのおばあさんは死んだ。そしてその母親も、その母親にオレを産ませた父親も、オレが殺した」

オレを産んだ母親が悪いのか、オレを産ませた父親が悪いのか。それとも、産まれてしまったオレが悪なのか。母や父をこんな人間にした、そのまた母や父が悪だというのか?
そうなのだとしたら、オレはどこまで行けば綺麗な人間になれるのだろうか。

「オレは、母親が言った通りのけがらわしい人間だ。なまえの家族のような綺麗な人間に近づくことも許されない」

ーーなれるはずがない。罪も悪も、どこまで行っても消えたりしない。オレがけがらわしいことに、変わりはない。

「だから、触れなかった。なまえをけがしたくなかったから」

両親に触れられることなく育ったオレは、なまえの母親や祖母が触れてくれた時に伝わる愛が羨ましかった。なまえにも、オレを愛して欲しかった。ーーオレにも、君を愛させて欲しかった。

「だがあの時触れることを拒まれて、オレにはなまえを愛する資格がないと思った」
「…!」
「……怖かったんだ、またなまえに拒まれるのが」

そしてそれは今も続いている恐怖だ、とは言えなかった。

「……わたしも、あの頃の夢をみたよ」
「え……」
「あの時、メローネのこと知らなくて、メローネが何考えてるかわからないのがこわくて、叩いたりしてごめんね……」

握りしめていた手を、彼女の両手が優しく包む。

「でもわたし、あの時のことがなかったら、知るのがこわくて、メローネと向き合えなかった」

気付けば震えは止まっていた。彼女に触れられたところから、あたたかさが滲み出ているようだった。

「きっと今も、メローネの中にはわたしの知らないことがたくさんあって、それを知るたびにわたしはびっくりしたり、怖くなったりするかもしれない。でもーー」

目頭がやけに熱くて、初めて彼女に触れられた時よりも強く、細胞が湧き立つようだった。


「わたしはメローネのことが大好きだよ」


彼女の愛を、ようやく受け止めていいのだと、涙が溢れて止められなかった。


「…………なまえ」
「これから先、それだけは何があっても変わらない。メローネは、大事な家族だから」


そう言って笑うなまえの笑顔は、つられて笑ってしまうほど幸せそうな顔をしていた。
彼女の心からの笑顔を、久しぶりに見た気がする。


「あの時言えなかったことを、今なら言えるよ」


抱きしめられた記憶を手繰り寄せながら、そっと彼女の身体を引き寄せた。


「オレもなまえが好きだ、愛してる」


抱きしめられるだけだったオレの小さな腕が、彼女を抱きしめている。
贖罪などではなく、ただオレの意思で、これからも彼女を守りたいと、あの頃の自分に誓った。


「これからもずっと、オレのそばにいてくれ」


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