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「……どういうこった、コレは?」

ソファーから聞こえた寝息に半ば呆れたような気持ちで近付いたプロシュートは、その寝息を立てていた人物を見て目を見開いた。
てっきりホルマジオ・イルーゾォ・ギアッチョのうちの誰かだと思い込んでいた頭に、つい昨日だか一昨日だかまで起こっていたはずの出来事がリフレインする。

「どうした」

それは後からやってきたリゾットも同じようで、ソファーで寝息を立てている人物を見て、すぐさま目を丸くした。
どういうことだと問おうとせんばかりのリゾットの視線に、プロシュートが思わず『こっちが聞きたい』とでも答えようとした、その時。


「ふぁ……、なまえはそこにいるのか?」


ーー欠伸をこぼしながら歩いてきたのは、メローネだった。


「なんだ、食べながら寝ちまったのか」

メローネはミルクに浸されて柔らかくなったカントゥッチをちらりと見てから、なまえに視線を戻した。

「よく寝ているな」
「なまえはオメーが居ねェと眠れないんじゃあなかったのかよ」
「ああ、それは勘違いだ」


これまで数年チームとして共に過ごしてきた事実を勘違いだと片付けてしまったメローネに、驚きを隠せない二人。

「オレが、なまえが居ないと眠れなかったんだ」
「…?どういうことだ」

なんでもないことのように平然とそう述べたメローネは、自分と一緒なおかげでなまえが眠れるのではなく、なまえが一緒なおかげで自分は眠ろうと思えていたのだと語る。

「手のかかる子供だったのはオレだったってことさ」

メローネは躊躇う様子もなくなまえに手を伸ばすと、その頭を優しく、愛おしげに撫で始めた。

「なまえ、寝るならベッドに戻るか?」
「……あれ、めろーね……?おはよ…」
「おはよう、まだ寝ぼけてるな」


なまえが再び夢の中へと入っていくのを見送ると、メローネは真剣な面持ちで二人に向き直った。

「なまえが意地でも寝なかったのは、オレのせいだ」

守りたい気持ちと、迷惑をかけたくない気持ちで板挟みになり、一人で眠ることもできず倒れてしまったなまえ。
もし今回のことがなくても、いつかどちらかが"使えなくなる"形でガタが来ていただろう、とメローネは頭を下げた。

「たぶんこのことは、なまえ自身には自覚がない。だからなまえのことは責めないでやってくれ」
「……」
「あんた達にも迷惑をかけて悪かった、これからは自分から睡眠をとるようにする」

忘れてなければ、だが。と付け加えるメローネを見ながら、プロシュートは小さく笑う。

「心配はさせられたが、迷惑をかけられた記憶はねえな」
「……!」
「同感だ」
「リゾット……」

プロシュートに賛同するリゾットに、メローネはもう一度頭を下げた。そして今度はプロシュートに向き直ると、逡巡したのちにゆっくりと口を開いた。

「…………プロシュート」
「なんだ」
「……なまえを泣かせたのは正直まだ許しがたいが」

プロシュートから顔を逸らすように、そしてその後の記憶を思い出すようになまえの方を見たメローネは、力んでいた拳を緩ませて、プロシュートに視線を戻す。

「あんたのおかげでオレもなまえも、わだかまりが無くなった。……それだけは、感謝する」

睨むような目つきはどこへ行ったのやら、プロシュートがそのまっすぐさに笑ってしまうほど、メローネの顔は穏やかだった。

「えらく素直じゃあねーか」
「あくまでそれだけだぜ」
「……もう大丈夫なんだな」

リゾットの、チームをまとめる者としての視線が突き刺さる。それはなまえに対してでもあり、何よりメローネ本人に対することでもあった。
しかし前を向いたメローネは、それを意に介する様子もない。

「……自分を蔑ろにして彼女のために生きることが、オレにとっては贖罪だった」

許されたいなんて、思ってはいなかった。許されることなどなくても、彼女の幸せな未来の為に生きられれば、それでいい。メローネは心からそう思っていた。

ーーでも、それでは意味がないと、彼女が教えてくれたのだ。

「だが、オレはもう罪に理由を押し付けたりしない。オレは、オレの意思でなまえと共にいると決めた」

だから、もう何も心配することはない。そう言い切ったメローネは、憑物が落ちたようにさわやかな顔をしていた。なまえのために生きるのではなく、自分のために生きた上でなまえと生きたいというメローネ。依存ではなく共存を選び、意志のある一人の人間の表情だ。

「やっとマシな顔つきになったじゃあねーか」
「なまえが、オレを救ってくれたからな」
「ハッ、どこの国も女は強いな」

三人の視線が注がれているのも知らずに今もすやすやと眠っているなまえは、幸せな夢を見ているのかニッコリと微笑んだ。



end

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