木漏れ日
ーー全治一ヶ月。本来なら死んでいた身であろう自分が、そんな軽症で済むなんて、不思議な話だ。切られたはずの目の傷の跡すら残っていない。腕を切られたアヴドゥルも、足を失ったイギーも、そんなことそもそも起こっていなかったかのように今も確かに存在している。
一ヶ月の病院生活と諸々の準備期間を終え、久方振りに通う通学路で、僕は空を見上げながら伸びをした。
承太郎がDIOとの戦いに勝利し、上書きされた世界。今までの自分と何ら変わりないはずなのに、どこか満たされたような、晴れやかな気持ちでいる。
空気が澄んでいるように思うのは、そのせいなのだろうか。
「なんだか、ずいぶんと懐かしいように感じるな……」
何の変哲もない通学路が、どうしようもなく愛おしい。死の覚悟がなかったわけでないが、少なくとも帰ってくるつもりではあった。なのに、ここに立っていることが、まるで奇跡のような気さえいた。
少なくともSPW財団がいなければ、人を傷つけてしまった僕がここに通い続けることは難しかったからかもしれないが。
門を潜ったところで、承太郎の姿を見つける。女生徒の波をかき分け、今日はサボらなかったんだな、と声をかけ共に歩いていると、自分が学生であることを強く実感した。
承太郎と別れ、教室へと入る。何人かが僕を見て驚いたような顔をしていたり、ひそひそと噂話をしているが、仕方がないだろう。
何日も学校に来ない転校生だなんて、僕が見たとしても怪しむに決まっているーー…
「花京院くん?」
席に座るや否や、隣の女生徒に名前を呼ばれて、目を丸くした。まさかほぼほぼ通っていなかったクラスの同級生に名前を憶えられているとは。
「あっ、名前も名乗らずにごめんね!隣の席の苗字なまえです」
「どうも。僕が花京院ですが…」
ぺこりと頭を下げる彼女に、つられるようにして頭を下げた。名を名乗り苗字さんと名乗る彼女に要件を問うと、彼女は何かを思い出したように口もとを綻ばせながら、じっと僕の方を見つめた。
「転校してきてすぐに怪我したって聞いて、ずっと心配してたの」
「え……」
「会えて良かった!これからよろしくね」
「……!」
胸がくすぐられるような感覚に襲われているのに、なんだかそれすらも心地よく感じる。
あたたかな笑顔に触れて、僕の心臓はやられてしまったらしい。
失われてしまったはずの未来にしっかりと足をつけた僕は、穏やかな春を感じながら、彼女と握手を交わすのだった。