プロローグ
シーザー・A・ツェペリが好きだった。私の人生なんて、それくらいだった。
落石があって、咄嗟に近くの子供を突き飛ばして、ただそれだけのことだったけれど、なんとなくこれで死ぬんだと思った。聖地巡礼なんて、私如きがシーザーを近くで感じようとした罰なのかもしれない。死ぬ間際に思い返すことはシーザーのことばかりで、なんて自分の人生には何もないのだろう、と思った。
ーーこんなに簡単に死んでしまうなら、私の代わりにシーザーに生きて欲しかったーー
ーーそう思ったとき、誰かが語りかけてきた。
『ーー貴方ノ命ヲ賭シテデモ叶エタイ願イハ何?』
声の方を向くと、人ではない何かがそこに立っている。その存在に気付いた途端、今まで見ていたはずの風景はさっぱり消えていて、辺り一面真っ白な、何もない空間になっていた。
無機質な目で私をじいっと見つめるそれは、まるでスタンドみたいだった。
「どういうこと…?ここは、どこ…?」
『私ハ貴方ノ強キ願イ。ココハソレヲ問ウ場所』
「私の願い…?」
事態がちっとも飲み込めない。私は死んだんじゃあなかったのか。
それとも、ここが死後の世界だとでも、言うのだろうか。
『貴方ノ、命ヲ賭シテデモ叶エタイ願イハ何?』
命を賭してでも叶えたい願い。私の命なんてもうあってないようなものではないかと聞き返したくなったが、そんなひねくれた気持ちも目の前の存在に見つめられると、どこか魔法にかけられたみたいに素直で優しい気持ちになれた。
「シーザーに…シーザー・A・ツェペリに、生きて幸せになってほしい」
『ーーソレヲ叶エル覚悟ハアル?』
その問いに迷わず頷くと、彼女が元からそこが住処だったかのように、私の中に入ってくるのを感じた。
全身が煮立っているみたいにふつふつと湧き上がる何か。それが強くなるのに合わさるように意識が遠のいて行く中、全身が潰れるような感覚に陥った。
『私ノ名前ハ、カインド・オブ・マジックーー貴方ノ強キ願イデ、彼ノ事実ヲ上書キスルーー……』