光芒
なまえは、おれの幼馴染みだ。小さな頃から変わらずずっと、一番愛しい人だ。世間の目がどう変わろうとそれだけは揺るがぬ事実で、確かな気持ちだった。彼女の隣に立つにふさわしいように、努力を重ねた。なまえがおれに笑いかけてくれるのなら、なんだってできた。彼女を守るためならば、何にだってなれると思った。そうすればこれからも彼女のそばに居られると。手を繋いで、ずっと共に歩んでいけると信じていた。
『なんでシーザーと居たら、からかわれるんだろう』
ーー彼女がそう、悲しそうに言った時の顔を、おれは今でも忘れることができない。
おれがそばにいるせいでそんな顔をさせてしまうなら、彼女のそばを離れなければ。彼女がもう二度と、誰かの言葉で傷つけられないよう、遠くからそっと、彼女を守らなければ。
ひとりさびしそうにしている女の子に声をかけるたび、なまえの悲しげな顔が浮かぶ。この行為をどれだけ繰り返せば、なまえと出歩くことを許されるだろうか。そんなことばかり考えていた。
『シーザー!!今どこにいる!?』
だからこそ、彼女と共に過ごせるJOJOが羨ましくて妬ましくて、仕方なかった。おれを探す文言のしばらく後、JOJOから届いた『なまえに会った』と綴られたメッセージ。それだけで、はらわたが煮えくり返りそうだった。
ずっと、彼女の一番はおれだと思っていた。おれが彼女を一番に想っているように、きっと彼女もそうだろうと。けれどもう、もしかすると彼女の心におれはいないのかもしれない。いつかまた彼女の隣を歩けたら、君に好きだと伝えよう。そんな甘い考えは、シャボン玉のように弾けて消えた。
◇
「シーザー、おはよ〜」
「……おはよう、なまえ」
家の前で立っていると、眠そうに目をこすりながらこちらを見るなまえが隣の玄関から出てくる。家が隣同士だと、時間をずらさない限り嫌でも鉢合わせすることになるのだが。
「……? どうしたの?」
「あ、ああいや、なんでもないんだ」
学校の方ではなく、おれの方へ歩を進めたなまえを見て、顔には出さないが心底ほっとした。最終的にうやむやになったせいで、昨日の事はなかったことになったのではないかと悩んでいたからだ。
……しかしうやむやになったのはある意味、なまえのせいでもある。
「先は長そうだな…」
「わかる、眠いと学校遠いよね」
「…………」
勘違いしたおれも悪いには悪いが、だからと言ってここまで愚鈍だとこの先どこの誰とも知らぬ奴に騙されてしまわないか不安しかない。
これからはおれがそばにいるのだから、そんな得体の知れない奴は近づけなどせんが、それでもうっかり騙されてしまいそうな危うさが、彼女にはある。
なまえは、おれのことをどう思っているのだろうか。
少なくとも大事な友達だと思ってくれているのは、間違いないだろう。そうでなければ、苦手だと言うのに朝からちゃんと支度をして、おれと登校などどうしてしてくれるというのだ。この下心を知ったとしても、そばにいて彼女を守ることを、彼女自身は良しとしてくれるだろうか。
「……シーザー、大丈夫?」
「? どうかしたのか?」
「いや、なんか難しい顔してるから…」
また怒ってるの?とでも言いたげな視線に気付き、慌てて否定する。
「考え事をしてたんだ」
「うん」
「…あ、朝弱いのによく起きれたなって」
「…………あっ私?」
おそらく全く別のことを考えていたのだろうと伺えるほど、驚いて目を見開いている。かと思うと声を上げて笑い出したなまえは、「そりゃあだって今日はシ、」とまで口にしたところで、ぴたりと顔が固まった。
「………………」
「なまえ?」
ゆっくりと俯いてそのまま顔を上げる様子のないなまえに、体調不良という言葉が頭を過ぎる。しかしなおも歩みを止めない彼女の足を止めるため、慌てて両肩を掴み顔を覗き込んだ。
「なまえ、具合が悪いなら家にーー…」
「!!」
覗き込んで見えたなまえの顔は、少し赤くて、熱があるようだった。不謹慎にもその顔が無性に扇情的に見えて、そのまま動けずに彼女と同じく固まってしまう。
「……べ、つに元気、だから!大丈夫!!」
「そ、そうか?だが顔が、」
「な、なんか暑くてさ!!もう夏かな〜!」
確かに気温も湿度もここ数日で高くなったし、少し歩いただけで汗ばむほど陽気が差している。気遣えなかったことと先程抱いた不純な気持ちを悔やみながら水筒から茶を入れ差し出すと、なまえは薄ら赤い顔のままそれを飲んだ。
「暑いだけならいいが…何かあったらすぐ言えよ」
「あ、ありがと…でもそんな心配しなくても…」
「大事な幼馴染みなんだ、それくらい当然だろう」
今はまだ、と諦めきれない気持ちのまま心の中で付け足していると、今度はどこか冷めたような顔で一瞬だけ固まる。
「そうだよね、うん、幼馴染みだもんね…」
「?」
すっかり顔色の落ち着いたなまえが足取りを速める。その隣を歩けることを嬉しく思いながら、おれはそっと彼女の手を取った。