第二話
どこからか聞こえた、鳥の鳴き声で目を覚ます。ベッドに横たわったシーザーは、まだ眠っている。
ーーもう、ジョセフはカーズを倒したのだろうか。見上げた窓の外には、素知らぬ顔をした空が広がっていた。
シーザーはこのまま飲まず食わずで眠り続けても大丈夫なのかと不安になる。小屋には食糧庫があるものの、今も眠り続けているシーザーにそれらを摂って貰う方法は、思いつかない。生きる可能性が少しでも増えるならと、気力が続く限りスタンド能力を使い続けた。
小屋に入って2日目。今日もシーザーは目を覚まさない。
夢でスタンドが何か言っていたような気がするけれど、目が覚めると何も覚えていなかった。体を拭いて、気力の続く限りスタンド能力を翳して、それを繰り返していた。そんな日々が一週間くらい続いた。
「いてて…」
学生時代に机に突っ伏して寝た時の比ではないその痛みに、ベッドの重要性が改めて身に染みる。
シーザーの分だけでもベッドが見つかって本当によかった。そう思いながらシーザーの方へ顔を向けると、首がぐきりと嫌な音をたてて傷んだ。
そろそろベッドに頭を預けて寝るのも辛くなってきたし(何よりシーザーのベッドにずっとお邪魔してるのも申し訳ないし)、どこかの収納に替えの布団とかあればいいんだけどな。そう思って部屋を見渡していると、ぴくり、と視界の端で何かが動いた。
「……シーザー?」
起きる様子はない。けれど、どうしても先ほど動いた何かがシーザーの何かだったような気がして、もう一度シーザーの名前を呼ぶ。
すると、シーザーの手が、指先が。微かにまた動いたのだ。
「シーザー…!!」
思わずシーザーの手を握りしめる。シーザーの手は、とてもあたたかった。
シーザーが生きていると、強く実感する。それだけでこんなにも、気力が湧いてくる。
ーーちょっと布団で寝れないくらい、なんだと言うのだ。そう思っていつものようにスタンドを出そうと起き上がろうとした。
「!!」
けれど、シーザーと繋いだ手が、それを許してくれなかった。接着剤で固められたのかと勘違いしそうなほど強く握りしめているその力は、私ではなくシーザーのものだった。もちろん起きているわけではない。私がシーザーので掴んだりなんてしたから反射的にそうなったとか、きっとそういう理由なだけであって、深い意味なんてきっとない。
「シーザー……あの」
「………………」
「起きてるわけ、ない……よね……」
不謹慎にも、シーザーに握り締められていると思うだけでドキドキして、顔が熱くなって、恥ずかしくて死にそうだった。
そんなことお構いなしに繋がれたままのシーザーの大きな手は、私の手を包み込んだまま離してくれそうもない。それがなんだか生まれたての赤ん坊みたいで、長い睫毛を伏せたシーザーの綺麗な顔に見入ってしまう。
「……シーザー……可愛…」
……勝手に看病している女が突然手を握っていた挙句顔を真っ赤にして可愛いだなんて言おうとしているなんて、シーザーからしたらあまりにひどい状況過ぎる!!
ギリギリ罪を犯す間際にそう思い直して、手だけだし頑張ればなんとか、と勢いよく起き上がろうとしたものの、離す気のないらしいシーザーの手に引っ張られ、離れるどころか逆に懐に飛び込んでしまった。
「……!!!!!!!!!!」
声にならない声をあげたのも束の間、人肌に安心したのかベッドの柔らかさにやられたのか、はたまたここ数日の疲れが今まさにどっと出て来たのか、急激な眠気に襲われた私は、今日だけシーザーの隣で寝ることを許してねと懺悔するように呟くのだった。