愛する子供

「愛してる」


突然言われたその言葉に、ときめかなかったといえば嘘になる。

見た目に惚れたわけではないとはいえ、プロシュートの顔はとても美しかった。それに見合った声だってしていた。そんな美しい人に甘い声色でそんなことを言われれば、誰だって浮かれてしまうだろう。
ただそれと同時に、やけにこなれた言い方をしているのが少し腹立たしかった。きっと、今までたくさんの人にこの整った顔で美しい声色で愛を囁いてきたんだなと思うと、嫉妬ではらわたが煮えくり返りそうだった。

けれど私は、彼と付き合ってそこそこになる大人の女だ。そんな子供っぽい嫉妬心なんて、おくびにも出すわけにはいかなかった。そんな半ば反抗心を抱きながら、不思議に思われない程度の間を空けて心の余裕っぷりを演出しながら、ゆっくりと言葉を返す。


「私も愛してるよ」


家事の途中だったこともあって、そのまま『気にしていません』みたいな顔をして洗濯物をたたみ始める。どうだ、言い返してやったぞ!なんて、大人の女性と言った口はどこえやら。勝利を誇るその様は子供さながらではないか、と段々恥ずかしい気持ちになってくる。

でも、もしいつものように動揺しているばかりでは、私ばかりプロシュートのことが好きみたいで、悔しいじゃあないか。
そんな風に負けた気持ちになりながら、顔を上げてプロシュートを見た。

「え…」

プロシュートの顔は、こんなに赤みがかっていただろうか。彼の肌は白くてきめ細やかで、女性も羨む美白さをしていたはずなのに、私の目が部分的に充血して、視界が赤くでもなっているのだろうか?
そうでなければ、プロシュートの頬が赤らんでいるなんて、夢でなければ、現実のはずがない。やめてよ、そんな顔されたら、あなたに本当に愛されているって、思ってしまうじゃない。

「いつまでも見てんじゃあねえッ」
「わぶッ!ちょっと服投げないでよ!」
「うるせー」

服を投げられた瞬間「人の決心を軽くあしらいやがって」と聞こえたのは空耳などではない。プロシュートが、照れている。それを理解した途端、時間差でプロシュートの愛が溢れんばかりに届いて、プロシュートの比じゃないくらい顔が赤くなってしまった。だって、決心するほど、私に愛を伝えるのに緊張したりしたということでしょう?

投げられた服がゆっくりと顔から落ちていって、ちらりとこちらを見たプロシュートの目が見開く。

「……なんでオメーが今更照れてんだ」
「プロシュートが、私のこと好きだから……」
「あ?さっきのセリフ聴いてなかったってことか?」
「聴いてたけど……」

信じてなかった、と正直に零せば、プロシュートはソファから立ち上がって、私のそばでしゃがみこんだ。プロシュートの顔は、先ほどまで照れていたとは思えないほど綺麗で真面目な顔をしていて、やはり負けているのは私なのだと悟った。

「そういう言葉を言い合わなかったのはお互い様だよなァ?」
「だって、言ったら私ばっかり好きみたいで悔しかったから…」
「…………」

正直にそう言えば黙り込んでしまったプロシュートの視線から逃げたくて、顔をそらした。けれど、骨張った手が私の両頬を包んで、視線を外すことを許してくれない。

「さっきオレがなんで服投げたかわかってるか」
「照れ隠し…」
「わかってんじゃあねーか」

頭を優しくぽんぽんと撫でられて、優しく微笑まれて、なんだか無性に泣きたくなってしまった。こういう面倒見が良くて、易々とは見捨ててくれないところが好きなのだ。だからそばにいたいと思ったのだ。誘われるままに飛び込んだプロシュートの胸の中からは、大人の男の人みたいな香水の匂いがした。

「オレがどれだけお前からの言葉が欲しかったかわかるか?」
「いつも余裕そうだったじゃん…」
「なまえの前だから格好つけてただけだ」
「でも、私はそれが寂しかった……」

服を掴む手に力がこもって震える。それを知ってか知らずか、あやすように背中を撫でられる。

「それは…悪かった、所詮オレも好きな女の前じゃあガキだってこったな」
「……プロシュートも自分のこと子供っぽいとか思うの?」
「なんだ、なまえも思ってんのか?オレ達お似合いじゃあねーか」

顔を上げると茶化すようにそう言いのけたプロシュートの嬉しそうな顔を見て浮かれた私は、またプロシュートの頬を赤くするべくそっとキスを落とした。

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