お姫様の時間

 メローネから『遅くなる』と連絡が入ったのでふらふらと散歩していたけれど、メローネを待ってられないくらいお腹が空いてきたようだ。どこか他人事のように、盛大な音を立てたお腹を見下ろした。
特に昼食を一緒にとる約束をしたわけでもないのだし、とバールに立ち寄り軽食を頼む。財布を開いた時に思った「これで今も仕事中のメローネがお腹を空かせていたら申し訳ないな」という気持ちも、食事が運ばれてきたらすぐに飛んでいってしまった。

そんな多少なりとも浮かれた気持ちではあったものの、急いで食べたどころかものすごく時間をかけてゆっくり食べていたはずなのに、メローネからの連絡はまだ来ていなかった。
後処理に時間でもかかってるのだろうか。それにしたって、連絡くらいあってもいいんじゃあないか。何か飲み物を頼むか、それともまた当てもなく街を散策でもするか。


「ひとりかい?ベッラ」


そんなふうに考えていたら、声とともに肩をポンと叩かれる。ベッラなんて久々に言われたなと訝しげに顔を上げると、声をかけて来た男は勝手に同じテーブルに座って、こう言った。


「オレとデートしないか?」


その顔があまりに彼氏とそっくり……いや、彼氏と同じ顔と声をしているものだから、私は思わず吹き出してしまった。


「……ぷっ」
「ふっ、ははは」


我慢できずに笑い出すと、同じようにメローネも笑い始めた。メローネの笑っている顔を、随分と久しぶりに見たような気がする。


「ごめんなさい、人と約束してるの」
「へえ、それは残念だな。相手はどんな奴だ?」
「待ち合わせに遅れるって言ったっきりなんの連絡もしてこない奴よ」
「おやおや、ひどい奴だな!そんな奴よりバイクで飛ばして君の元へ来たオレに乗り換えないかい?」


お互いのするわざとらしい演技に笑いをこらえながら、まるで愛馬を紹介する王子様のような動作で少し先に停めてあるバイクに手をやる。ナンパしながら連絡が無かった言い訳を挟むとは、なかなか台詞回しが上手じゃあないか。


「貴方ならバイクでどこへ連れてってくれるのかしら」
「君が望むならどこへでも」
「……ところで貴方、名前は?」
「オレはメローネ、君は?」
「なまえよ、それに偶然ね!私の待っている人もメローネと言うのよ!ふ、ふふふっ」


耐えきれず再び笑い出すと、メローネはやけに浮かれた様子で私を抱き上げて、そのままバイクまで私を運ぶ。シートからヘルメットを取り出すと、恭しく私の手を取った。


「なまえ、オレの可愛いプリンチペッサ。君を独り占めしたいんだが、君の時間をくれないか?」
「……もういいよ冗談は、恥ずかしいから」
「なんだ、冗談だと思ってるのか?」


拗ねたように口を尖らせたかと思うと、その口で触れるだけのキスをする。照れた私を見て満足気に微笑んだメローネは、ヘルメットを私の頭にしっかりと被せて、自身もシートに座った。
風が吹いてメローネの柔らかな髪が私の頬を撫でて、くすぐったい。


「わざとらしい演技はしたが、冗談のつもりは何一つだってないぜ」


今日のメローネは、どうしてこんなにポンポンと恥ずかしいセリフが出てくるんだろうか。顔が赤くなってしょうがないったらありゃしない。
ティアラにしては重すぎる気がしないでもないけれど、今日のところはおとなしくこのキザな王子様にエスコートされることにしよう。走り出したと同時に勢いよく抱きついたら、メローネはまた声を出して嬉しそうに笑った。

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