「おっいたいた! どうしたんだ?」
「沢村くん‥」
栄純はいつものようにまた何か本を貸してくれるのだとなんの躊躇もなく近付いた。そんな栄純の心中を知ってか知らずか、女子生徒は沢村の手をさっと掴む。
「沢村くんのことが好きです!」
驚いた栄純が思わず1人の女子生徒の名前を浮かべるのも無理はない。数日前にも似たような出来事があったのだ。
それでも栄純は、目の前の人物の必死さを嘲笑うような行動は良くないだろうと必死に頭の中で首を振った。
「‥‥それって」
「さ、沢村くんと恋人になりたい…って、ことだよ‥‥」
「お、おお‥‥そうか‥‥‥」
栄純は顔を赤くさせて視線をあちこちに彷徨わせる。それ以上に真っ赤になった女子生徒の顔は、誰が見ても愛らしいものであった。それは栄純も例外ではなく、目の前の恥じらう乙女に鼓動を速くさせるのは、至極当然のことだった。
「いや、まさか急に告白されるとは思わなくてだな‥!」
「ご、ごめん‥」
「あ、迷惑なわけじゃねえぞ!その、気持ちは嬉しい!!けど‥‥」
頭を掻きながら言葉を選ぶ様子の栄純に、女子生徒は表情を曇らせる。
否定の言葉から始まったのだ。あまりいい返事ではないのだろうということは、彼女にも容易に汲み取れた。
「‥‥‥けど、悪い」
「‥‥え‥‥‥」
栄純は、決心したようにまっすぐに彼女を見つめると、申し訳なさそうに答える。
「おまえの気持ちには、応えられそうにない」
「沢村くん‥‥」
「‥ほんとごめんな!なんというかだな、その‥‥」
栄純の心底申し訳なさそうな表情に、女子生徒はくすくすと笑った。気にしないで、と彼女が言うと、栄純は感謝するかのように、礼を言いながら握られた手を上下にぶんぶんと振った。
「‥‥ひとつだけ聞いてもいい?」
「おう!なんでも聞け!」
栄純は彼女が口を動かした瞬間、数日前に春市と話した時と同じような感覚に陥った。口をぎゅっと固く結んだまま、下を向いて動かなくなる。
その日女子生徒がした質問に、栄純が答えることはなかった。
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