次の日。沢村くんは、静かだった。
授業中も真剣な表情で何かを考え込んでいて、先生までもが話しかけることを躊躇っていた。ノートとってなかったから、結局怒られてたけど。
沢村くんは一日中そんな様子で、途中何度か頭を抱え込むような動作をする以外は、ほとんど動かなかった。部活で何かあったのかもしれないし、もしそうだとしたら変に沢村くんの邪魔をしたくなかった。
そう思って放課後まで一言も話さずに過ごしたのだけど、沢村くんは教室から誰もいなくなってしまってもまだ動かない。さすがに、これは様子がおかしいのかもしれない。練習に遅刻するようなことがあってはいけないだろうし、もしかしたら具合が悪い可能性だってある。声をかけずに、後になって悔やむ方がずっとずっと嫌だ。
「あの、沢村くん」
「!」
ぴくりと肩を動かしたかと思うと、ゆっくりと手のひらを私の方へ向けた。沢村くんは、後にしてくれと言おうとして、突然口ごもった。
「すまん。やっぱ質問していいか?」
沢村くんの真剣な表情に、どきりとする。真面目な沢村くんに対して今こんなことを思うのは不謹慎な気がして、気を引き締めるためにも両手で頬を叩く。私が答えられることなら、と強くガッツポーズをすると、沢村くんはははっと声をあげて笑った。
「なんであの時、俺に好きって言ったんだ?」
沢村くんが発した言葉は、私が想像していたものとは全く違っていたものだった。一瞬動揺したものの、沢村くんはじいっと私を見つめて答えを待っている。そんな沢村くんに応えてあげたくて、私は素直に答えた。
「‥‥わがままになったから、かな」
「わがまま?」
沢村くんが不思議そうな顔をする。確かに、この答えだけじゃ不十分だ。私は目を閉じてあの日を思い出す。ほんの数日前のことのはずなのに、すごく遠い日の思い出のような気がする。
「‥あの日初めて、いつもみたいに話してるだけじゃ嫌だって思ったから。思ったら、いつのまにか口から出ちゃって‥」
そうだ、本当は私、沢村くんに告白するつもりなんてなかった。そのままずっとずっと仲良くして、沢村くんのことを知ってもっと好きになったとしても、それでも私は沢村くんに好きだと言うつもりはなかったのだ。
きっといつか、沢村くんがプロ野球選手になって、テレビで結婚報告が流れることがあるかもしれない。そんな未来があるとしても、それでも私は見ているだけでいいと思っていたのだ。
あの時、あの瞬間を迎えるまでは。
「‥‥ごめん、あんまり答えになってなかったかな‥」
「‥‥‥いや」
「おかげでスッキリした!ありがとな!」
沢村くんは少し考えるような素振りをしてから、満足したのか、笑いながらそう言って、思い出したかのように練習へ向かった。よくわからないけど、元気が出たならよかった。‥‥私が原因な可能性もあるけど。ひとまず安心して、私も帰ろうと鞄を持った時、教室の入口から沢村くんが覗く。
「また暇な時練習見に来いよ!」
暇人の私は大きく頷いて、再び駆け出した沢村くんの後を追った。
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