嫌いだと思ったことは一度もない。
けれど、好きだと思ったことも、一度もなかった。
何故なら彼女は、友達だからで。
教室でただ語り合い笑い合う、一人の友人だったからで。

「沢村くんのことが好きです!」

そう言われて初めて、彼女を"そういう"目で見た。こちらを向いた途端、分かりやすいほどに変わる表情。嬉しそうな声。好意的な視線に気付いて、自然と頬が熱を持つ。そうしたら、今まで彼女にどう接していたか分からなくなった。

それでもその視線に慣れて、また友達として向き合おうとした時。彼女が好きだから動揺するのではと言われて、また分からなくなった。否定できない自分が、少なからずいたからだ。彼女に好きだと言った時、心にすとんと何かが落ちたような感覚になった。これは納得したわけではないと、それは友達としてという意味だと、何度となく自分に言い聞かせた。

 二度目の告白に、驚きはすれど前ほどは動揺はしなかった。動揺してしまったのは、当たり前のように口から出てきた謝罪の言葉にだ。前に告白してきた彼女も、今目の前にいる彼女も、何一つだって変わりはしない大事な友人のはずなのに、それでも俺は、自然と目の前の彼女をそういう対象ではないと割り切った。それはどうしてか、なんて。



「‥‥どうしたらいいんだ、春っち」

 栄純は目の前の少年が溜息をつくのを、落ち着かない気持ちで見つめた。髪に隠れたその先で、彼がしている表情はきっと、呆れだろう。

「栄純君って、馬鹿だよね」
「うぐっ‥‥!」

栄純は頭を下げてどうにか助けを乞おうとするが、目の前の少年、春市に助ける気は見て取れない。栄純が机に手をつき頭を下げている様子を、春市は呆れた様子で見下ろしていた。

「し、しかし‥今更なんと言えば‥」
「栄純君はさ、その子が栄純君が一度や二度失敗したくらいで幻滅するような子だと思ってるの?」
「!」

栄純が顔を上げると、先程とは違い優しい顔をした春市が栄純を見下ろしていた。春市と視線を合わせるべく上体を起こす。すると春市は栄純の背中をトンと押して、自分から遠ざけた。

「栄純君は栄純君らしくいけばいいんだよ。ね?」
「俺、らしく‥‥」

春市から押されたままに歩き出す。自分らしく、というのは栄純にはまだ理解出来なかったが、それでも自信を持つには十分すぎる言葉だった。

「栄純君、頑張って!」

春市のその心強い応援の声に、栄純は歯を見せて笑った。
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