「お疲れ様沢村くん!はい、これ」
「おおおーー!!!アイス!!ありがたく!!!!」

練習後、この前買ったのと同じアイスを沢村くんに渡した。二つ入ってて、お得感がすごいやつ。シャーベットだからいつでも食べやすくて、私のお気に入りだ。もう片方は風呂上がりにでも食べてねと言うと、沢村くんはそれを聞いてないとばかりに半分こしてくれた。

「ありがとう、沢村くん‥」
「元々お前が買ったやつだけどな!」

いたずらっぽく笑った沢村くんにつられて、私も一緒になって笑った。なんかこういうの、いいなあ。私が感慨にひたっていることなんて知る由もない沢村くんは、アイスの切り口をいそいそと切り離して、中身を吸い出していた。

「これ、自分で決めて買ったのか?」
「そうだけど、どうして?」
「あーー‥ほら、おにぎりは相談したって言ってただろ?だから今回もそうなんかなとだな」

どこか取り繕ってるように見えて、納得していない声でふーん?と返事すると、沢村くんは口をぎゅっと噤んでから、そっぽを向いた。私がどうしたのと訊く前に、沢村くんは「おにぎり」と呟いた。

「食ってた時は、すげえ嬉しかったのに」

唐突に始まったおにぎりの話に理解が及ばないでいたけれど、眉間に皺を寄せて思い出すようにして語る沢村くんの言葉を逃すまいと必死で追った。

「食い終わって苗字の方見たら、知らない男と話してるし、朝にも相談したとか言うし‥‥」

どんどんと顔をしかめていく沢村くんに、私は瞬きを繰り返す。



「‥‥取られたくねえなって、思って」

これはもしかして、夢だろうか。脳内で勝手に想像してしまった言葉の続きと全く同じ言葉を、沢村くんが言うなんて。そう言えば、前にもこんな風に都合のいい夢を見た気がする。あの時も沢村くんは今みたいに少し顔を赤らめて、私に私が望むような言葉をかけてくれて‥‥それで、

「職員室にこっそり入ってどこの誰だか調べようかと思ったのに見つかって追いかけられるし‥‥」
「そ、それで追いかけられてたの?!教卓の下に隠れた時?!!」
「見つかったというか、こっそり入ってたことがバレて反省文書かされそうになったからというか‥」
「ええええ‥本格的に私関係なかったんじゃ、」
「だーー!もういいそんな話は!!」

ズコーっと音を立ててアイスを一気に食べ切ったかと思うと、沢村くんは勢いよく頭を押さえた。アイスクリーム頭痛かな、なんて思う暇もなく、沢村くんは私のアイスを握っている手を握った。


「苗字のことが好きだ!!!」


‥‥これはやはり、夢なのだろうか。すぐには何を言っているのか処理しきれずにきょとんとしていると、沢村くんはあの時の私が後悔したみたいにぶるぶると震えだした。

「お前といる時だけ落ち着かねえし他の奴のことそういう目で見れねえしお前が他の奴といるとムカつくし!!」
「え、あの、」
「元気付けて慰めるために好きだって言ったら自分でも変に納得しちまったし!!!」
「!? そ、それ、ゆゆゆ夢じゃ、」
「だから前にも言っただろーが!部屋入ったって!!!」
「う、うそ‥‥」
「嘘じゃねえ!‥‥だから、もうこれ以上苗字を待たせる理由は無い!!」

私の言葉なんて聞く耳もたずでまくし立てる沢村くんは、そのまま大きな声で「返事は!!!」と尋ねてきた。
‥‥返事も何も、私はずっとずっと沢村くんのことが好きなのだから、沢村くんの気持ちに今更否定の言葉を被せるはずがないじゃないか。
沢村くんの手の熱さと私の体温で溶け始めたアイスを見つめながら、沢村くんが望んでいるであろう言葉を返す。

「じゃ、じゃあ誰なんだあいつは!!あの、仲よさげな相談相手!!!」
「あの人、従兄だよ‥‥」
「イトコ?!イトコって、あのイトコか?!!」
「あのってどのか知らないけど、親戚の従兄だよ‥?」
「‥‥そ、そうか‥‥!」

途端に顔を真っ赤にして視線を下の方へやった沢村くんに、少しだけ微笑ましい気持ちになる。私の手を覆っていた手も、ぶらんと沢村くんの肩から伸びているだけだ。

「‥‥あ、あのですな」
「は、はい?」

変に畏まった様子でそう尋ねられ、私まで緊張してくる。

「俺たち、もう恋人同士なんだよな」
「‥‥‥!!」

沢村くんがじっと私の方を見つめながら手を差し出してきたけれど、私に沢村くんの目を見つめ返すことなんてできるはずがなかった。だって、沢村くんのマメだらけの努力家のかっこいい手が、ほんの少し、まるで緊張してるみたいに汗ばんでいたのだから。
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