朝起きてすぐに、学校の準備をしなければと思った。昨日までも思っていたはずなのに、何故だか今日、昨日までよりも余計に行かなければと思ったのだ。
もしかしたら、昨日見たいい夢のせいかもしれない。
数日ぶりに出た外は、少し眩しくて前を向き辛かったけれど、その眩しさがまるで沢村くんみたいに思えて、追いつきたくて一歩ずつ進んだ。
「苗字!!」
「さ、沢村くん‥おは、」
「体調はもういいのか?!熱は?咳は?!!」
「うわあああの、大丈夫!大丈夫だから‥!ストップストップ‥!」
肩をがっしりと掴んでゆさゆさと揺すり続ける沢村くんを、今日も元気いっぱいだなあ、なんて流せるほどさすがに私も元気ではない。ハッとしたように謝りながら手を離して一歩離れた沢村くんにホッとした。揺らすのもそうだったけど、それ以上にちょっと距離が近くて恥ずかしかったんだ‥!
「いやー良かった!何日も休んでるからさすがに心配でな!」
「し、心配かけてごめんね‥!でも沢村くんが心配するようなことはなにもないから!安心して!」
「‥‥俺に迷惑がどうのって話か?」
「!」
驚いて沢村くんの顔を凝視する。沢村くんも突然見つめられてびっくりしたのか、頬を染めて視線を逸らした。どこからその話が漏れたのか不思議だったけれど、あまりにその顔が愛らしかったので正直に言うことにした。
「沢村くん、私が告白してからわりと挙動不審だったじゃないですか」
「お、おう」
「‥‥は、話しかけたのに、スルーされたりとか、したし、」
「スルー?!すまんそれは身に覚えがないぞ!!」
「ええ?!」
ところどころ噛み合わないところがあったものの、私が言った言葉を沢村くんはうんうんと頷きながら聞いてくれた。恋してる本人に恋愛相談してるってなんて変な状況だろう。
「‥だから、避けられてたように思って落ち込んでたというか、その‥‥」
「あーー‥‥」
沢村くんは頭をぽりぽりとかいて、視線をあちこちに彷徨わせる。そして決心したようにこちらを向いたかと思うと、恥じらいを含んだような声でぽそりと呟いた。
「昨日言ったこと、その‥‥そんなに嘘じゃねーから」
「‥‥‥‥昨日‥‥?」
「えっ」
困惑した表情でお互いを見つめ合う。沢村くんは顔色を青くさせながら視線を下に向けて、「俺、昨日苗字ん家行ったんだけど‥」とおそるおそる告げる。その言葉に、思わず私も顔を青くした。
「‥‥もしかして、昨日のって夢じゃない‥?」
「き、気付いてなかったのか??!」
「ご、ごめん‥!その、ほんとに夢だと思ってたし、最後の方は安心して眠くなったせいかあんまり憶えてなくて‥‥」
「そ、そうなのか‥‥‥‥」
夢の中だと信じきっていたから好き放題言ったような気しかしない。物凄い勢いで罪悪感が湧いてきて、頭を何度も下げた。
「ご、ごめんなさい沢村くん‥‥!」
「あっいや、憶えてないならいい!!むしろそのまま忘れろ!!!」
「え?えっ??沢村くん、やっぱり何か大事なこと言ってたの‥?」
尋ねた途端顔を赤くしながら猫目になった沢村くんに混乱していると、沢村くんはやけに声を張って「春っちに用があったんだったー!」なんて言い出して、そのまま勢いよく飛び出して行ってしまった。
‥‥一体、昨日の私になにがあったのだろう。
「あっ沢村!」
「おおう?!なんだ?!」
「隣のクラスの女子から呼び出し。ほら、よくマンガ借りてる」
「ああ、あいつか!わかった!」
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